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#7 フリムスにある楕円の橋の話

好きな橋はありますか?

私には、留学に行く前から、
絶対に自分の目で見るのだと心に決めていた橋があった。

それを建築をテーマにした映像が紹介されているサイトで見かけた。
設計者はスイスの構造家、Jürg Conzett。
彼はスイスのフリムスという地域にある山の中に7つの橋を設計した。
その1つ。
可愛らしい形の橋が大自然にぽつんといる姿を想像して、
これは見たいと思ったのだった。

実はフリムスには3回ほど行く機会があったのに、
2回は辿り着けなかった。
その過程で他の橋も見に行ったけれど、どれも繊細で無駄がなく、美しかった。期待は高まる。

構造が分かる人を尊敬する。
必要最低限最適なものの形を分かっていることは、
デザインの幅を限りなく広げ、洗練させることができるということだと思うから。

もう日本に帰る直前の8月始め、3度目の登山でやっと楕円の橋まで辿り着いた。
といっても、時間と体力に限りがあり、
途中までロープウェーで登ったので厳しい道のりでもなかった。
いつものピンクのニューバランスで、いつもの軽いリュックで
よく晴れた山道をただ歩く。
道中は暑いけれど、風は涼しくからっとしていて気持ちいい。
少し登って、岩場を下る道に変わった時、
目下、橋は急に現れた。

周りの岩が、流れる水の勢いで削り取られてなめらかな曲線を描いている。
無機質なコンクリートでできたその楕円の橋は、
周囲の有機的な曲線に溶け込むように
ごく自然に架かっていた。

それはなんの違和感もなく、急流の中にあるのに静謐で、
ミニマルで豊かで、
私はしばらく動けなかった。
感動していた。
世界で一番好きな、美しい橋。
恐らくその一番が生涯変わることはないでしょう。

その頃聴いていた音楽は、
daughter "Switzerland"


日本から遠く離れた山の中、
今も変わらず好きな橋がただ佇んでいるだろう。
そう思うと、自分の心の隅にあるこの愛がちらつく。

ちなみに、文中の建築作品を扱った映像は下記をご覧ください。
あなたにも良い出会いがありますように。


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