まわりのひと(5)

 叔母にまつわる記憶をすくいとるよう書いてきた。前回は叔母の人間関係。人から「ありがとう」とか「たすかるよ」などと言われることに最高の喜びを感じていた叔母は、物心がついた私にはとても純粋に見えた。今回は家族。

家族の絆
 この言葉を聞くとどのようなものをイメージするだろう。無償の愛だろうか。今の時代、さまざまな家族の形がある中で、そんなもの幻想だという人もいるかもしれない。叔母にとってはなんだったのだろう。
 叔母はよく家族にからかわれていた。とくに祖父はタチが悪くいつも同じ手口である。温泉旅行の帰り道、祖父はきまって叔母に言うのである。
「今度は、おれと二人だけで行くか。」
叔母は怒った口調で真面目に言い返す。
「ダメだよ、車を運転する義兄さんがいなきゃ!」
この言葉に、家族は大笑いをする。まったく調子がいいんだからと。たしかに、いつも優しく接していたはずの私の父は、叔母にとって「車を運転する人」なのだ。続いて祖父は言う。
「じゃあおれ抜きで行っておいでよ。」
叔母は不機嫌に反応する。
「それじゃあお金が無くて困るよ!」
さっきよりも家族は大笑い。なんと、自分の父親は「お財布」代わり。お土産が買えなくなっちゃうから困るのだという。それじゃあ自分の母親は?これは変化球。「家においていったらかわいそう」と上から目線。
 こんなやりとりをしばらく続けていると、祖母の「やめな、あんまり怒らせると心臓に悪いよ」という冷静な言葉で幕を閉じる。会話が終わっても、叔母は怒ってブツブツと文句のようなものを言っている。そんな大人たちのブラックジョークを聞きながら、叔母は人気者だなと思った。
 そして、私の母について叔母が言った「お姉ちゃんは、いないと困るから」という言葉は、二人の何か特別な関係を象徴していたのだろうと、今になって思う。

(6)に続く

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