まわりのひと(4)

 ちょっと不思議な叔母は、ダウン症だった。前回は叔母の仕事について思い出してみた。今回は、友達について書いてみる。

まさおちゃん
 
祖母の家で幼少期を過ごしていた私は、よく散歩に連れていってもらった。その日は保育園を休んだのか、いつもより遠くに行くと告げられた。途中、駄菓子屋でお菓子を二つ買ってもらった。ビニール袋に入れて大切に持っていたのだけれど、気付いた時には中はからっぽだった。よく見ると袋には大きな穴が空いていた。祖母に見せたが、新しいものは買ってくれなかった。でも、私も別にそれでいいと思った。
 二人でずいぶん歩くと、人の家に着いた。祖母の友達の家だとわかった。居間に座って私は二人の会話を聞きながら家の中を見回した。戸の奥に台所があり、暗い廊下の先に階段がある。祖母の家と似ているが、この家はなにか静かだ。私は、そのとき意味を知っていたのかわからないが二人の会話に割って入った。
「おばちゃん、ひとりぐらし?」
 二人は吹き出して笑っていた。おばちゃんは、まさおちゃんと二人で暮らしていると話した。その人はうちの家族の会話に何度か出てきた人だ。実際に会ったこともあるまさおちゃんは、叔母と顔の似た男の人だった。

おみやげ
 
私の家族はよく、一泊二日の温泉旅行に出かけた。叔母はお気に入りのおもちゃをカバンに入れて、大好きな野球の帽子をかぶっていた。幼い頃に行く温泉旅行は、私にとってあまり楽しいものではなかった。料理は難しい食べ物ばかりで、部屋のテレビは知らない番組ばかりやっている。熱い温泉は長く入れたものではない。そして私の家族もにぎやかに楽しむというより、静かに早く寝るのだ。
 その中で一人、叔母はとても嬉しそうだった。おもちゃで遊びながらひとりで話してひとりで笑っている。その笑い方は家よりも喜びにあふれていた。それにはちゃんと理由があった。
 叔母は、家を出発した時からおみやげのことばかり話していた。作業所の先生に買わないと。誰々ちゃんに買わないと。と、今思えば叔母のおみやげを買うために旅行をしていたようなものだ。叔母はずっと「先生たちはあたしに、ありがとうって言うなあ」と嬉しそうにつぶやいていた。人に物をあげて、ありがとうと言われたかったのだ。私は、親友に一つお土産を買うのだが、祖母は、叔母が作業所に持って行くお土産を2箱買っていた。
 いつも、旅館に着いて早々におみやげを買う。叔母の旅行はこうして目的を果たすのだった。

(5)につづく

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