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気候変動を「緩和」するエネルギーシフトとは? | WHY & HOW by NOSIGNER Vol.03

「WHY & HOW by NOSIGNER」は、デザインファーム・NOSIGNER(ノザイナー)がお届けするソーシャルデザインマガジンです。いまデザインが挑むべき社会課題(=WHY)を毎回一つ取り上げ、その背景を掘り下げるとともに、NOSIGNERが関わっているプロジェクト(=HOW)についてご紹介します。

WHY #03:気候変動の緩和

世界中で進むエネルギーシフト

気候変動への対策は、「緩和」と「適応」に大別されます。前回のニュースレターでは、気候変動の被害を回避・削減する「適応」に関するデザインをご紹介しました。今回のテーマは、もう一方の「緩和」です。現在の気候変動緩和策は、気候変動を引き起こしている原因である二酸化炭素をはじめとする「温室効果ガス(GHG)」を減らすことを目的としています。
具体的には、GHGの排出を抑制したり、森林の保全によって大気中から二酸化炭素を固着する施策などが挙げられます。中でも、GHGの主要な排出源となっている現在のエネルギーを再生可能エネルギーにシフトすることは不可欠になっています。

これまで私たちは、電力をはじめ日々の暮らしに必要なエネルギーを主に化石燃料から得てきました。しかし、石油や天然ガスなどの化石燃料を燃やすと温室効果ガスが大量に排出されるだけでなく、これらの資源は有限で、いずれは枯渇してしまいます。こうしたことから、太陽光や風力、地熱、バイオマスなど再生可能エネルギーの開発が世界規模で進められています。

日本における自然エネルギー発電電力量の割合と2030年までの目標を示したグラフ。

日本でエネルギーシフトが進まない理由

日本では2011年の福島第一原発事故によって、エネルギーシフトの機運が急速に高まり、翌2012年に施行されたFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)によって、各地に再エネ発電施設が急増しました。それでも再生可能エネルギーの全発電量に占める割合は2割前後で、欧州をはじめとした世界の主要国から大きな遅れを取っています。
その背景には、他国と比べて再エネの発電コストが高いことや、再エネ導入のための市場の仕組みが整っていないことに加えて、平野部が少なく、日照時間が比較的短いという地理・気候的要因によって、太陽光エネルギーが得にくいといった問題などがあるとされています。

地域エネルギー政策を推進していく上での主な課題。

日本の行政においても持続可能なエネルギー政策は日々検討されています。しかし、福島原発事故などの影響もあり政策全体がポジティブに捉えられず、エネルギーを持続可能に転換する前向きな姿勢が国民に伝わりにくいという状況を抱えています。

再エネ発電所と地域の間に生じる歪み

再エネ発電所は全国各地にありますが、これらは時に地域の景観を損ねたり、自然環境を破壊してしまうことがあります。また、地域資源を使って生み出された自然エネルギーによる収益は、地域に還元されていないことがほとんどで、再エネ発電所に抵抗感を示す地域も増えています。地域と再エネ発電施設の関係に生じている分断や歪みもエネルギーシフトにおける大きな課題になっているのです。


HOW#03:e.CYCLE | まち未来製作所

再エネの地産地消は可能か?

まち未来製作所は、再エネの地産地消や都市間流通を実現する電力アグリゲーション事業、地域新電力や脱炭素先行地域のコンサルティング事業などを手がける会社です。
同社が提供するサービス「e.CYCLE」は、再生可能エネルギーを直接買い付けて集め、需要家が共同購入する入札を開いて卸売をすることで、電気代を安く(平均約16%削減)しながら産地の保証された再エネを利用可能にし、取引手数料の大半(約75%)を地域に還元する、地域や地球に優しいサービスです。
エネルギーと地域が共生する持続可能な社会を目指す同社の理念や事業に共感したNOSIGNER代表・太刀川英輔は、2022年より取締役として経営に参画しながら、事業戦略立案やブランドの再構築などをサポートしています。

いい未来をつくる再エネの地域循環共生圏

同社が提供するサービスは、旧称の「グッドアラウンド」の頃から、全国の自治体との連携や発電事業者、小売電気事業者との協業によって日本各地に広がりつつありましたが、サービスの内容や理念、仕組みのわかりにくさが普及への足かせになっている側面がありました。

そこでリブランディングによってサービス名を「e.CYCLE」に改称し、多様なサービスを包括する「e.」のロゴマークを制作。まち未来製作所が今後発展する事業のブランドを統一する戦略を図りました。

さらに、e.cycleを導入している自治体を「e.CYCLEパートナー」と名付け、「e.CYCLE YOKOHAMA」「e.CYCLE AIZUWAKAMATSU」などのローカルブランドとして展開することで、全国に広がるネットワークを可視化しています。

サービスや仕組みが世界に広がる未来へ

e.CYCLEは全国十数自治体で活用されるプラットフォームに成長し、全国の再エネの約0.1%に相当する9億kWhの電力を流通しています。
まち未来製作所が目指すのは、再生可能エネルギーが広く普及し、地域と共生関係を築く未来を標準にすることです。地域や地球が持続可能になる再生可能エネルギーの循環を実現し、“いい”未来をつくっていくために、今後もe.ブランドのもとでさまざまな事業を展開していく予定です。

地域と発電所、あるいは都市と発電所が立地する地域との関係の歪みが世界的な課題になっている中、グローバルにも通用するブランディングが世界中の人たちの共感を生み、同様のサービスや仕組みが世界中に広がっていく未来を描きながら、まち未来製作所の活動に並走していきます。

e.CYCLEでは、再エネ電力への切り替えを検討している事業者をサポートしています。再エネ電力切替え入札への参加を希望される方は下記よりお申し込みください。


NOSIGNERは、経済産業省が発行している「エネルギー白書」2022年度版のデザインを手掛けました。日本のエネルギー政策についてもっと知りたくなる刊行物に生まれ変わらせるべく、最も白書(=White Paper)らしいあり方を検討し、「白」に徹底的にこだわったヴィジュアルを表紙や扉ページのデザインに展開。日本のみならず海外の方にも直感的に伝わりやすい「エネルギーホワイトペーパー」のイメージを体現しました。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

NOSIGNERでは、いま私たちが挑んでいる社会課題(=WHY)や、デザインの実践(=HOW)を毎回1つずつ紹介する「WHY&HOW」から、NOSIGNERの最新ニュース、代表の太刀川英輔による近況報告、スタッフ持ち回りコンテンツなどさまざまなコンテンツが満載のニュースレター「WHY & HOW by NOSIGNER」を配信中です。

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ABOUT NOSIGNER

NOSIGNERは、社会の各セクターを進化へ導くデザインパートナーです。デザイン戦略のプロフェッショナルとして、ブランディング・商品企画・空間設計・ウェブサイトのデザインなど様々な領域で国際的に評価されています。また、地域活性・まちづくり・脱炭素・気候変動・防災などの分野で豊富な知識と経験を備え、代表の太刀川英輔が提唱する「進化思考」を通して、創造的な組織や人材の育成活動にも力を入れています。


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