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建築廃材は新たな資源になり得るか? | WHY & HOW by NOSIGNER Vol.09

「WHY & HOW by NOSIGNER」は、デザインファーム・NOSIGNER(ノザイナー)がお届けするソーシャルデザインマガジンです。いまデザインが挑むべき社会課題(=WHY)を毎回一つ取り上げ、その背景を掘り下げるとともに、NOSIGNERが関わっているプロジェクト(=HOW)についてご紹介します。


WHY #09:建築廃材の利活用

サーキュラーエコノミーへのシフト

従来の大量生産・大量消費を前提とする経済システムは、原材料の調達、製品の生産、消費、そして廃棄という不可逆的なプロセスの上に成り立ってきました。しかし、このリニアな経済モデルは、天然資源の枯渇や製造プロセスにおける温室効果ガス排出など、深刻な環境負荷を地球に与えてきました。こうした背景から、私たちには既存の資産を循環的に利用し続ける「サーキュラー・エコノミー」へのシフトが求められています。
サーキュラーエコノミーは、「Reduce(減らす)」「Reuse(再利用する)」「Recycle(再生する)」の3Rを基本に、これまで廃棄物とされていた製品や素材を資源と捉え直し、その循環を促進するものです。今回のニュースレターでは、産業廃棄物の中でも特に大きな割合を占める建築廃材に注目し、この分野におけるサーキュラーエコノミーの可能性について考えます。

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建築業界が与える環境負荷

廃棄物の運搬や処理の過程で生じる温室効果ガス、処理場の不足や不法投棄による土壌や水質汚染など、産業廃棄物をめぐる問題は多岐にわたります。中でも、国内の産業廃棄物の約20%を占める建築廃棄物の処理によって発生する炭素排出量は膨大で、たとえリサイクルされたとしても輸送や再資源化には多大なエネルギーが必要となります。また、世界全体のCO2排出量の約40%が建設や建物の運用に起因していると言われており、建築業界が地球環境に与える負荷を低減することは大きな課題となっています。

こうした問題を、私たちが毎日を過ごす住居やオフィスの快適さや利便性を犠牲にすることなく、解決することはできるのでしょうか。そのひとつのアプローチとして、既存建築物のリノベーションが挙げられます。新築に比べて新たな資源の消費を抑え、環境への負荷を大幅に削減できるリノベーションは、快適な住居やオフィスをつくるためのサステナブルな方法だと言えます。しかし、リノベーションであっても解体作業などでは依然として大量の廃棄物が発生し、その処理にはエネルギーが必要となります。

産業廃棄物の業種別排出量(2019年度)

廃材が循環するサイクルをつくる

環境負荷を最小限に抑えながら、建築物におけるサーキュラーエコノミーを実現するためには、建築廃材を効率的に活用することが大切です。特に、資源を極力移動させずにその場で再利用し、最小限の加工で新たな価値を生み出す設計によって、限りある資源を何度も利用できる循環のサイクルをつくることが求められています。この地産地消的なアプローチは、輸送時の炭素排出量を削減し、廃棄物処理にかかる環境負荷を軽減するはずです。廃棄物を資源として見直し、新たな価値を与えることはそれ自体がクリエイティブな挑戦であり、デザインが果たすべき役割のひとつなのです。


HOW#09:Regene Office

解体で生じた大量の建築廃材

NOSIGNERは、2021年に横浜・中華街に位置する現在のオフィスに移転しました。このオフィスが引き渡される前、既存の内装の解体現場に立ち会った私たちは、石膏ボードの壁を支えるために用いられていたおよそ2トンもの軽量鉄骨の残骸を目の当たりにしました。この廃棄物を新しいオフィスの内装材としてそのまま活かすことはできないか。そう考えた私たちは、解体業者に廃棄物をそのまま置いていってもらうように依頼しました。建築廃棄物をその場でアップサイクルするサステナブルなリノベーションができれば、それは最も環境負荷が少ない廃棄物処理の形になるからです。

廃棄物をその場で建材に変換

こうして私たちは、残された建築廃棄物によるオフィスのデザインに挑戦することになりました。そして、大量の軽量鉄骨の廃棄物をカットし、それらをランダムに並べることでユニークな表情を持った天井ルーバーを設計しました。このルーバーは照明器具を内包し、移動が不可能だった大量の配線やダクトを目隠しする機能を併せ持っています。こうした軽量鉄骨の廃棄物だけでなく、廃材を混ぜて焼成されたタイル「SOLIDO」や、リサイクルされた工業用アルミ箔を多用することで、空間デザインを構成する材料の大半が廃棄物由来となる、他に例を見ないサステナブルなオフィス空間が実現しました。

廃棄物が資源として見直される未来へ

今日も世界中の解体現場では、大量の軽量鉄骨が廃棄されています。それならば、私たちがオフィスデザインを通じて行った軽量鉄骨の内装材への利活用もまた、 世界中の環境負荷を減らす有効なデザインアプローチになるはずです。
NOSIGNERの新しい事務所として完成したオフィスにおいて、私たちはこれまでもプロジェクトを共創してきた慶應義塾大学KMDのメンバーと合弁で、GXおよび二酸化炭素排出量計測と削減を専門とするスタートアップ「 SUSTUS」を創業しました。私たちはこの新しいオフィスを、デザインとコンサルティングの2つの側面から循環型社会を創造する舞台として、さまざまな産業のトランスフォームを推進していくつもりです。
廃棄物の利活用を美しいライフスタイルの一環として広く浸透させるためには、多くの挑戦が必要です。持続可能な未来に一歩ずつ近づくために、私たちができることを積み重ねていきたいと考えています。


NOSIGNERが設計した「幸ハウス」は、癌患者同士やその家族、友人らが励まし合いながら、人生の尊厳を取り戻すとともに、看護師のやすらぎの場としても機能する医療福祉施設です。三角形という特殊な形状の敷地に合わせた空間構成、地元間伐材の使用など地域の自然や生態系に徹底的に素直な建築を実現させました。通常は捨ててしまう樹皮をそのまま残して建物の外側に用い、インテリアには木の中身である角材を使うことによって、できる限り自然に即したデザインに徹しました。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

NOSIGNERでは、いま私たちが挑んでいる社会課題(=WHY)や、デザインの実践(=HOW)を毎回1つずつ紹介する「WHY&HOW」から、NOSIGNERの最新ニュース、代表の太刀川英輔による近況報告、スタッフ持ち回りコンテンツなどさまざまなコンテンツが満載のニュースレター「WHY & HOW by NOSIGNER」を配信中です。

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ABOUT NOSIGNER

NOSIGNERは、社会の各セクターを進化へ導くデザインパートナーです。デザイン戦略のプロフェッショナルとして、ブランディング・商品企画・空間設計・ウェブサイトのデザインなど様々な領域で国際的に評価されています。また、地域活性・まちづくり・脱炭素・気候変動・防災などの分野で豊富な知識と経験を備え、代表の太刀川英輔が提唱する「進化思考」を通して、創造的な組織や人材の育成活動にも力を入れています。


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