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韓国に学ぶデザイン政策―気候変動に対応する公共デザインを考える

NOSIGNER代表の太刀川英輔です。
もう1ヵ月ほど前になってしまいますが、この10年近く伺えていなかった韓国に伺いました。コプチャンチョンゴルやビビンパ、ソルロンタンなど韓国料理が大好きな僕にとっては、待望の楽しい旅でした。ここで感じた日本とのデザイン政策のギャップについて話したいと思います。

近年の韓国のデザイン運動の盛り上がりには目を見張ります。
例えばザハ・ハディドによる東大門デザインプラザは韓国のデザインムーブメントの象徴の一つです。韓国はデザイン政策を追い風として、世界で戦えるメーカーやコンテンツを20年かけて作り出してきました。

そんな盛り上がりの中心地の一つが、アジアでもトップレベルのデザイン教育を提供しているHongik Universityです。
今回はこの大学で行われた2つのイベントに登壇してきました。招待してくれたProf. Kim JooyunさんやProf. Lee Hyunsungさんたちの友情に感謝します。

まずHongik Universityで開かれた韓国空間デザイン学会主催のセーフティデザインフォーラムにキーノートスピーカーとして招かれました。そしてこの歴史ある韓国空間デザイン学会の名誉理事に、外国人として初めて推挙されたとのことで、ご招待いただいたのでした。

韓国では今、防災や工事現場での安全などを包括した「セーフティーデザイン」の概念が政府に浸透しはじめています。ありがたいことにNOSIGNERが手がけたOLIVE東京防災などのプロジェクトが、セーフティーデザインの模範的なケースとして扱われているようなのです。

 2011年9月から現在まで販売されている「OLIVE いのちを守るハンドブック」
防災出版プロジェクト「東京防災」

そこで今回は気候変動に適用したレジリエントな都市を作る思想ADAPTMENTについてお話ししてきました。他にも行政機関やデザイン、セクターから様々な登壇者がセーフティデザインについてのスピーチをしました。韓国や世界各国で推進する心強い仲間を得た気分です。

気候変動に対する適応策「ADAPTMENT」

またHongik Universityは公共セクターにおけるデザインの革新のために、パブリックデザインフォーラムを開催しています。進化思考が韓国でも出版されたのを受けて、このパブリックデザインフォーラムでも進化思考のメソッドをお伝えする講演会が開かれ、100名を超える学生や研究者が参加してくれました。
開催レポートがあるので、ぜひご覧ください。

パブリックデザインフォーラム(The Public Design Forum 2024)登壇時の様子

さらに韓国の新しい公共デザインプロジェクトをいくつか拝見しましたが、細部まで思想が行き届いていた。数年後にはこのHongik UniversityもOMAによってキャンパスのリデザインが行われ、さらに創造的な場所へと生まれ変わるようです。デザインでやることがいちいちデカいのが面白い。韓国のデザイン運動は本気です。日本はどうでしょう。公共デザインの取り組みはアジアの中でも日本は古くから取り組んでいます。建築やインダストリアルデザイン、あるいはグラフィックなど、個人や企業単位での取り組みの国際的評価も相変わらず高いと言えるでしょう。

しかし残念ながら、大規模なデザインプロジェクトやデザインドリブンの公共政策は他のアジア各国と比較するとすでに大きく遅れを取っているのではないかと感じてしまうのです。

万博もオリンピックも、私には残念ながらデザイン政策としての戦略性が全く感じられません。一過性のイベントではなく、他にいくらでも同じ税金でやるべきデザイン政策があるでしょう。

僕が理事長を勤めるJIDAとしても、これまで約1000点ものデザインコレクションを集め続けているのに、展示場所となるデザインミュージアムすらまともにない有様です。なぜなら作る目的が議論されていないから。政治や各省においても、デザインの意義が依然として政策として真面目に議論されていない、歯がゆい状況があります。

韓国では徐々に、大都市において都市のデザイン統括者としてマスターデザイナーの採用が徐々に当たり前になっており、ソウル市長選挙や大統領選挙にもデザイン政策のリーダーシップは不可欠になっていると聞きます。

10年前に萌芽を感じた韓国のデザイン政策が、今回は実現した結果として見ることができ、韓国の取り組みの力強さに大きな刺激を受けました。このギャップを感じつつも、日本でもデザインによる行政の革新はまだまだ実現できるはず。

我々の手元から変化を起こしたいと誓った韓国の旅でした。

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