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鷹の台駅前で半世紀以上やきとりを焼くケン子おばちゃん。〈新月_たかの台〉

お蕎麦や定食もおいしい『新月』の店先で、元気にやきとりを焼くおばちゃんのファンになった話。

「おかえり!今日は暑かったね!」

日が暮れかかった鷹の台駅前で明るく声をかけてくれた新月のおばちゃんは、赤い提灯が揺れる店先でやきとりの準備をしていた。
夕飯のおかずは決まっているけれど、やきとりも買って帰ろう。自転車を線路沿いに置いて、おばちゃんの手さばきを眺める。
手を動かしながら気さくに話しかけてくれるおばちゃんの姿がかっこよくて、たちまちファンになってしまった。

それから、鷹の台の用事のあとは新月でやきとりを買って帰るのが密かな楽しみとなった。

Photo by taya

フォトグラファーの竹田さんと玉川上水沿いを歩いて、写真を撮ってもらった、桜がギリギリ残っていた春の日。
最後は新月でしめましょうと約束をして、昼間はあちこち歩き回り、太陽の日差しをたっぷり浴びた。ビールの喉越しが最高においしい状態で、新月の暖簾をくぐる。

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「いらっしゃい!どこでも好きなところ座って」

威勢よくおばちゃんが出迎えてくれる。まだ店内は私たちだけ。ビールとつまみを頼んで、とりあえず乾杯。

 「串食べる?どれもおいしいよ」

おばちゃんはてきぱきとやきとりの準備をはじめた。数本やきとりを注文すると、店先の焼きスペースでせっせと手を動かすおばちゃん。
竹田さんは、おばちゃんの手さばきが見たいと、表にまわって観察していた。

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あつあつのふきのとうの天ぷらが登場したタイミングで、次の飲み物を注文。徐々に店内もにぎやかになってきた。
プリっと焼けたやきとりもそろって、お酒がすすむ。

新月はおばちゃんのやきとりと、今は亡きご主人のお蕎麦を売りに昭和44年にはじめたお店。
17年ほど前から長男夫妻と一緒に、地元の胃袋を支えるべく変わらぬ味を守り続けている。

昼の定食、夜のつまみやおかずもいろいろあって、お酒が飲みたいときも、しっかりごはんが食べたいときもここにくれば間違いない。
旬のものや、ほっとする家庭的な料理も食べられる。
この日も、やきとりと天ぷらの他に、餃子、揚げ出し豆腐、もろきゅうをいただいた。
なんでこんなにメニューが豊富なのかおばちゃんに聞くと、

「新潟の人は働き者だからね!」

と言って、ニカッと笑顔。
うん、わかります。同じ鷹の台に新潟出身のかっこいいおじいちゃんがいる。お店は閉めてしまったけれど、それはそれはよく働き、お客さんの喜ぶ顔のためにと80を過ぎるまで商売をしていたそうだ。時代を築いてきた先輩たちの仕事に対する情熱はかっこいい。

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「息子たちはやきとりの煙まみれで、たくましく育ったよ!おじいさんに子守してもらってね。私は手をかけてあげられなかったけど、周りに助けられたよ」

昔話や子育ての話をしながらも、次々にオーダーをとっていくおばちゃん。さすが半世紀以上この場所で商売している大ベテラン。

鷹の台は学生が多いまちだからか、幅広い世代が同じ店で顔見知りになって会話をしている姿も見かける。そんな場をつくり出しているこのあたりのお店の存在がとても尊い。

店を出るときにおばちゃんに名前を聞いた。

「ケン子って言うんだよ。おかげさまで健康で元気だ!」

名は体を表すの言葉通り。外まで見送ってくれて、はははっと笑うおばちゃんとの別れが名残惜しくて、思わず握手してもらった。

一言あいさつを交わすだけで元気が出る時がある。たわいもない会話に救われる日もある。こんなにあたたかい気持ちの帰り道は久しぶりだった。

(お)

【新月】
東京都小平市たかの台43−10


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