ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その5
老人と少女3
少女は窓から入ってきた蝶を見て喜んだ。
「おじいちゃん! 帰ってきたよ! 今度はオレンジ色だよ!」
老人が手をさしのべると、蝶はその手に止まった。
少女は老人に言った。
「オレンジはどんな涙?」
老人は微笑んで言った。
「オレンジ色は、うれしい涙だよ。だれかさんに、幸せなことがあったみたいだね」
老人は昔、まだ小学生だったころ、新種の蝶を発見したことで表彰されたことを思い出した。表彰式で母が涙をこぼし、それを蝶が食べたのだ。そのときはじめて、蝶が涙を食べることと、それによって羽の色が変わることを知ったのだった。そしてその色もオレンジ色だった。
きっとこの蝶も、どこかで誰かが、同じように流したうれし涙を食べたのだ。
「あったかい、うれしい、しあわせな涙?」
「そうだね」
少女は幼心に、だれかに幸せなことがあって良かった、と思った。
蝶の羽は、オレンジ色が薄れて、白に戻っていった。
「他には、どんな涙があるの?」
少女の、涙を食べる蝶への興味はつきなかった。
「よし。じゃあ…もう一度。今度はどんな涙を食べるかな?」
そう言うと、老人は手を空へと伸ばした。
それに答えるかのように老人の手から青空へと、白い蝶が羽ばたいていった。
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