ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その2
とある悲恋
気がつくと、またソファに突っ伏して寝ていた。少し変な姿勢で寝ていたので体の節々が痛い。鏡を見るまでも無く、泣きはらした顔はひどいことになっているだろう。外に出る気力もない。今、何時かしら?
テーブルの上に置いてあったスマートフォンを見ると朝の5時27分だった。会社からの着信が2件、友人からの着信が3件と私を心配するメッセージ……そしてまた、死んでしまった彼との思い出のフォルダを開いてしまいそうになる。
思い出して涙が出そうになる。
何も考えてはいけない。
気分を変えるためにシャワーを浴びた。
長い髪をていねいに洗う。彼がキレイだと言ってくれた、自慢のストレートの黒髪……。
また思い出そうとしている。思い出と深い悲しみで胸がいっぱいになる。
シャワーの音が嗚咽をかき消し、水流が涙と一緒に流れる……。
バスタオルで髪を拭きながら、ベランダに出た。アパートの二階からながめる景色はとても好きだ。早朝で、まだあたりの景色はうっすらと青だった。
さわやかな朝の空気を吸いながら、この景色を二人で見たことを思い出して、また涙がこぼれた。
そのとき、フッと何かが頬をかすめた。
白い羽の蝶だった。頬をかすめた後、蝶は少し離れたところをヒラヒラと飛んでいた。
「なあに? 元気付けてくれてるの?」
白い蝶があまりにキレイだったので、問いかけてみた。
そうすると、不思議なことが起こった。蝶の白い羽が、青い羽に変わっていったのだ。
涙をぬぐってもう一度見てみた。涙でぼやけて、見間違えたのではなかった。
蝶の羽は、今や辺りの景色よりも深い青に変わっていた。
やがて蝶は、遠くの空へと飛んでいった。
そうしてしばらく空を見ていた。珍しい蝶もいるものだ。
そうだ。この世界にはまだ私の知らないことがたくさんある。まだ知り合ってない人も。
明るみを帯びていく空のように、心が晴れていった。
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