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マイクロソフトのサステナビリティへの挑戦

以前の記事で、GAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)が取り組むサステナビリティについて概説しましたが、今回はその中でも特に野心的な取り組みを行っているMicrosoftの取り組みについて紹介します。

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Microsoftは2020年1月17日に、「2030年までにカーボンネガティブを目指す」と発表しました。これはMicrosoft自社で排出される二酸化炭素とサプライチェーン・バリューチェーンからも排出される二酸化炭素について、という点がかなり野心的です。そして、どうしても排出される二酸化炭素は、二酸化炭素の削減・除去テクノロジーを用いて相殺する、という点もかなり特徴的です。これを達成するためにClimate Innovation Fundを設立し、今後4年間で10億ドルを新技術の開発に投資し、二酸化炭素除去技術を開発・促進してゆくとしています。そして2050年までには、1975年の創業以来、直接的・間接的に排出してきた二酸化炭素の影響分までも除去すると発表しています。

Microsoftの株価時価総額は世界第2位の約150兆円です(2020年04月末時点)。そのMicrosoftのサプライチェーン・バリューチェーンともなるとかなり膨大で多種多様の業種にまたがることが予想されますが、Microsoftはその中で排出された二酸化炭素に全て責任を持つと断言しています。

一方で、総額10億ドルのClimate Innovation Fundはどのような企業に投資されるのでしょうか?詳細はまだ明らかにされていませんが、先行する気候変動テクノロジーファンド「ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ」の投資先が参考になりそうです。このファンドの会長は、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏です。このファンドは、温室効果ガスの排出量を最低5億トン削減できる技術を保有・開発している企業を投資先としています。その中には、地熱発電や蓄電池、ベジタリアンフードや合成肥料など、様々な分野の企業が30社以上含まれています。Climate Innovation Fundの投資先も、これらの企業や、その関連技術を保有する企業になる可能性が高そうです。このような技術は、社内では「ムーンショット技術」と呼ばれているようです。ムーンショットの一般的な定義は、「人々を魅了する・創意にあふれた斬新さ・信憑性」の3点ですが、Microsoftは莫大な資金力を元に世界を変えうる技術の開発を目論んでいるということです。

このClimate Innovation Fundは、実は社員の要請を受けて設立されたものだという噂もあります。2019年は気候変動の活動が特に強まった年で、スウェーデンの高校生らの活動「Global Climate Strike」に応じて、9月にはAmazonやGoogle、Microsoftなどの従業員らが、気候変動について自社の取り組みを批判するストライキを行いました。内容としては、事業において2030年までに二酸化炭素排出をゼロにすることや、石油・石炭などのエネルギー企業とのビジネスを取りやめることを要求していました。このような社員の要求に経営層が応じたとするなら、その点でもMicrosoftに学ぶことがありそうです。

このような野心的な取り組みは、Microsoftのような資金豊富な企業だからこそなせるワザかもしれません。Microsoftが地球環境のことを真摯に考えて活動している点もあるとは思いますが、一方でそれが自身のビジネスチャンスだと論理的に判断したからこその活動であるとも考えられます。

気候変動の影響がますます顕在化する中で、SDGsに取り組むことはもはやグローバル企業にとっては避けては通れない道です。そこでいち早く新技術に投資して、他社が真似できないような知見と技術を手に入れることができれば、Microsoftのビジネス拡大にもサステナビリティの貢献にも繋がります。SDGsは「持続可能な開発目標」ですが、企業にとっては地球環境保全とビジネスを両立させて進めていこうという内容です。Microsoftの取り組みは、まさにSDGsそのモノを体現しようとしているのかもしれません。

ただ面白いことに、MicrosoftのプレスリリースにはSDGsという言葉は一言も出てきません。SDGsはヨーロッパ的な価値観のもと作られたということを落合陽一さんはその著書の中で述べていますが、このMicrosoftのプレスの中にもSDGsが誰にとっての目標なのか、垣間見えるような気がします。

少し脇道にそれましたが、Microsoftは自身のサービスを利用する顧客に対しても、二酸化炭素排出量を可視化するためのツール(Microsoft Sustainability Calculator)などを配布していて、世界各国の企業が二酸化炭素排出量を減らすためのサポートも行っています。地球環境保全に取り組む個人や組織に対して、自社のAIを活用するための助成金を提供する「AI for Earth」などの取り組みも行っています。

私たち一人ひとりに何ができるかを考えることも重要ですが、このように技術と思想を持ったリーディングカンパニーと一緒に何かすることで、地球環境に対してより大きな良い効果をもたらすことができるかもしれません

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