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オーストラリア森林火災と気候との関係

気象と波浪について研究している、博士課程の大学院生が、オーストラリアの森林火災について、少し専門的な内容も交えて、気候との関連から説明を試みます。

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出典:CNN

森林火災の概略

2019年の7月頃より、オーストラリア南東部(ニューサウスウェールズ州・クイーンズランド州など)では森林火災が大規模化・長期化し、これまで17万平方キロメートル以上(日本の面積の約半分!)が消失しました(2020年1月20日時点)。日本では報道が落ち着いていますが、火災は現在も続いており、3月まで高温と乾燥が継続すると予想されており、被害の拡大が懸念されます。

さて、まず押さえておきたいことは、オーストラリアでは森林火災は自然的に頻発する現象であり、生態系サイクルの中に組み込まれた現象であるということです。例えば、バンクシアという植物は、その実が火であぶられることにより種が弾けるという仕組みを持っています。ユーカリはその根に養分を多く蓄えており、幹や枝が炎で大きなダメージを受けても、根の養分を使って素早く再生できるそうです。驚くことに、ユーカリ自身が火災の原因物質を発生させるというその生態です。ユーカリはその葉からテルペンという物質を放出し、それが引火性を持つために夏季には火災を発生させやすくなります。

森林火災の発生原因

森林火災の発生原因は諸説ありますが、今回の大規模森林火災の発生原因は、はっきりとは特定されていないようです。前述したユーカリや落雷などによる自然発火も原因としてはありますが、キャンプやタバコの残り火やアーク放電など人為的な原因もあります。原因の特定は、さらなる調査や研究が必要だと思われます。
この記事では、森林火災の発生ではなく、なぜこれほどまでに大規模化・長期化したのかについて、気候との関連から説明をしたいと思います。

森林火災と気候との関係

ここから、自分の専門である気候と森林火災の関係について、述べていきます。(ホントの専門は気象なんですが)
キーワードは、インド洋ダイポールIOD, Indian Ocean Dipole)と南極振動SAM, Southern Annualar Mode)です。結論を先に述べると、インド洋ダイポールと南極振動がともに極端な状態になって、オーストラリア南東部に高温・感想な状態を長期間もたらした、ということです。

オーストラリア気象局の画像もお借りしながら簡単に説明をします。
南極振動(SAM)は、南極周囲を吹く偏西風の位置が数ヶ月単位で変化する現象を指しています。オーストラリア周辺だと、この指標が負の時に偏西風のが北側に移りますが、その際にオーストラリア南東部の雨が少なくなる傾向にあります。

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出典:http://www.bom.gov.au/climate/sam/

インド洋ダイポール(IOD)は熱帯インド洋で見られる、気候の状態が東西で振動するような現象のことです。海水温の高低が東西において、数ヶ月から数年の時間スケールで、シーソーのように振動することが知られています。2019年後半は、このインド洋ダイポールが極端な正の状態になっており、オーストラリア南東部の雨が少なくなった一因となっています。

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出典:http://www.bom.gov.au/climate/iod

下のグラフは、2010年から2020年初めまでの2つの指標の時間変化を表しています。2019年後半を見ると、南極振動(上グラフ)はこの10年で最も低く、インド洋ダイポール(下グラフ)は最も高い状態になっていることがわかります。
この2つの現象は、オーストラリア南東部での雨を少なくする作用を持っているので、2019年後半に極端な乾燥状態がこの地域で続き、森林火災の大規模化・長期化につながったと考えられます。

Indexグラフ

データ出典:
SAM:http://www.nerc-bas.ac.uk/icd/gjma/sam.html
IOD:https://stateoftheocean.osmc.noaa.gov/sur/ind/dmi.php

地球温暖化との関連

この森林火災は、国連による気候変動の締約国会議がスペインで開催されていた時に、まさに大問題となっていて、世界的に気候変動への対策をしようという機運が盛り上がりました。
実際に、オーストラリア全体の平均気温は上昇傾向にあり、地球温暖化の兆候がはっきりと見られます。先程の2つの指標の極端な状態が、地球温暖化によって引き起こされたものであるのかどうかは、研究が近いうちに明らかにしてくれると思いますが、きっと何らかの関係が見つかるのではないかと個人的には思っています。
(地球温暖化と気候変動の違いについては、こちらのサイトが詳しく説明しています→エコネットワークス 地球温暖化vs気候変動

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出典:http://www.bom.gov.au/climate/current/annual/aus/

あとがき

ここまで読んで頂いた読者の皆様、どうもありがとうございました。
実はこの記事は、自分にとっての初めてのnote投稿です。自分の知識を使って価値を提供する手段を模索した結果に行き着いたのが、インターネットにおける世の中の気象現象・環境問題についての意見発信です。そうすることで、社会がより良く・自分の生活が充実することを目指しています。
今後もこのような記事を定期的に発信していく予定ですので、どうぞよろしくお願いします。

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