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新型コロナウイルスの流行を科学的に考えるためのヒント

新型コロナウイルスがいよいよ日本でも猛威をふるい始めていますね・・・。専門とは全く違いますが、この新型肺炎の感染・流行が疫学的にどのように考えられているのか勉強したので、そのメモを載せます。
(この記事は新型肺炎の未来予測等をするものではありません)

【ポイント】
感染症の流行予測には、SEIRモデルなどの数値モデルがよく使われる。
感染症の伝播予測を実社会でやるには計算量が莫大で、スーパーコンピュータが必要らしい。
季節性インフルエンザと比べて、新型肺炎(COVID-19)は感染力が強く、潜伏期間が長い。

新型肺炎は、「新型コロナウイルス感染症」という名称が日本では付けられ、国際的には「COVID-19」という名称となりました。日本における感染者数や状況については、厚生労働省のページで詳しく説明されています。

研究者として自分は、「感染症全般の流行や伝播はどのように予測されるのだろうか」という疑問を持ったので、勉強したことをこのノートにまとめることにしました。

新型肺炎の流行状況

こちらのサイトに、新型肺炎の世界での感染者数がわかりやすく可視化されています。世界保健機関(WHO)等がクレジットにも登録されているので、信頼に足るサイトだと思います。

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(2020年2月21日時点)

感染症の流行予測

この章は、新型肺炎に限らず、インフルエンザなども含めた感染症全般についての内容です。

感染症の流行を予測するには、SIRモデルやSEIRモデルなどの数値モデルが使われるそうです。ここでは、モデルの一つであるSEIRモデルを例にとって説明します。

S, E, I, Rとは以下の4つの英語の頭文字です。
Susceptible: 感染症に対して免疫を持たない者(無免疫者)
Exposed: 感染症が潜伏期間中の者(感染者)
Infected: 発症者
Recovered: 感染症から回復して免疫を獲得した者(回復者)
これは下の微分方程式を解いて、閉鎖空間内の感染者数や発症差数、回復者数の時間変化を予測するモデルです。(研究で使われる式はもっと複雑で、下の式は簡略化されています)

SIERモデル01

わかりやすく書くと、下のような方程式になります。

SIERモデル02

詳しい内容は、こちらのサイトに説明されています。

新型肺炎の季節性インフルエンザと異なる点は、感染力が強く潜伏期間が長いことです。感染力とは抽象的な言葉ですが、「基本再生算数:1人の感染者からうつる人数の目安となる」という指標が参考になります。
日本経済新聞の記事から、この基本再生算数の表を引用します。

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また厚生労働省によると、新型肺炎の潜伏期間は1〜12.5日(多くは5〜6日)とされています。一方で、季節性インフルエンザの潜伏期間は1~5日間です。

つまり、先程の式ではベータβとアイIが、季節性インフルエンザよりも新型肺炎のほうが大きいということになります。式から考えると、新型肺炎は季節性インフルエンザよりも、潜伏期間中の感染者数が大きく、発症者数は小さくなることが予想されます。ただし、この式から予測されるのは、「閉じた空間における人数」なので、実際の社会とは大きく異なることに注意が必要です。

また、SEIRモデルはあくまでモデルのひとつに過ぎないので、状況や感染症の特徴に合わせて他のSIRモデルやSISモデルなどの使い分けが必要らしいです。

感染症の伝播予測

上の流行予測は小さいパソコンでもできる簡単なモデルですが、理想的な条件でしか使えず、実社会にそのまま適用できるわけではありません。
「感染症が実社会にどのように伝播するか」はモデル化も計算がはるかに難しいテーマです。こういった未来予測系の研究は、単純化した世界における可能性を表現することしかできないので、基本的には公開されていません。そして、研究途上のテーマのようです。

省庁の会議資料(公開されたもの)や研究所のプレスリリースなどを調べたところ、最近の研究ではマルチエージェントモデルのような数理モデルなどを利用して、感染症が都市スケールに伝播する様子をシミュレーションする取り組みがなされているようです。季節性インフルエンザの記事も含まれていますが、以下のサイトが参考になりそうです。

平成24年 文部科学省: インフルエンザ拡大予測および介入政策立案のためのスーパーコンピュータの利用(PDF)

さらに気になる方は、「感染症 数理モデル」「感染症 流行モデル」などでGoogle検索してみて下さい。

実社会は、人の動きだけでなくその人の健康状態や行動、建物の空調や移動手段、気象条件など、実に様々な状況が絡み合って複雑なシステムを形成しています。それをコンピューター上に再現して未来を予測するということはそれほど難しいのか、想像すら困難に感じます。

おわりに

今回の新型肺炎に限らず、感染症の流行についてはこれまで多くの研究がなされているものの、まだまだわからないことが多いのだなと感じました。公開はされていませんが、政府や省庁、国際機関では以上のような数理モデルを利用して、新型肺炎を如何に流行させないか、について考えていることと推測されます。

専門外の人間が、センシティブな新型肺炎の流行について意見等を出すことは、当初は控えておこうと思っていました。しかし、このような緊急事態だからこそ、科学リテラシーを持って対処し、日々流れてくる情報を自分の頭で考えて判断しなくてはいけません。そのために必要な情報を、私が理解できる範囲でノートにまとめ、少しでも役に立てればと思い、note公開に至った次第です。
誤りやご異論等あれば、積極的にご指摘・ご意見をお願い致します。

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