41.山沢損(さんたくそん)~自利即利他②

六十四卦の四十一番目、山沢損の爻辞です。
卦辞はこちらです。
https://note.com/northmirise/n/ncdc6a9dec84a

41山沢損

主爻

主爻は、六三と上九です。六三が損じて上九を益し、益した上九が天下万民を更に益すのです。

初九

事を已(や)めて遄(すみや)かに往く。咎无し。酌(く)みて之を損(へら)す。
象に曰く、事を已めて遄かに往くとは、尚(かみ)、志を合はするなり。

仕事の手を休めて速やかに(九四の方へ)向かう。咎はない。(いかほど損すべきかを)十分に酌量した上で己の持ち分を損する。

正位にして志正しく、有形無形の財産が充実したる陽爻です。応ずる六四が窮するのをみて、己の持つものを差し出すのですが、全てを差し出すのではなく、あらゆる状況を十分に酌量した上で、出すべき分だけを出すのです。

九二

貞に利し。征くは凶。損せずして之を益す。
象に曰く、九二、貞に利しとは、中以て志とす為なり。

正しい道を堅く守り通すがよい。進んで行くのは凶。己を損せずして相手を益す。

初九のように己を減らして相手を益すばかりが能ではなく、何も差し出さずして相手を益せしめることが中道に叶う道であることを説きます。

六三

三人行けば、則ち一人(いちにん)を損す。一人行けば、則ち其の友を得。
象に曰く、一人行くとは、三なれば則ち疑ふなり。

三人で進めば、うち一人が損する。その損した者が独り進めば、そこで友を得る。

損の卦は元々は地天泰の卦であり、内卦は乾であったのですが、うち上爻の陽が己を損して外卦の坤を益したのです。内卦に残った二つの陽爻は仲良く収まり、外卦に上った一つの陽爻はそこで新たな居場所と仲間を得たのです。

六三(繋辞下伝)

繋辞下伝の第五章より抜粋します。

天地絪縕(いんうん)して、万物化醇(かじゅん)す。男女、精を構(あわ)せて、万物化生す。易に曰く、三人行けば、則ち一人を損し、一人行けば、則ち其の友を得と。一を致すを言ふなり。

天地の気が相交わり和合して、万物の気が変化して形を成す。男と女、雄と雌とが相交わり精気和合して、万物は形を成して生まれ出でる。損の卦の六三に曰く「三人行けば、則ち一人を損し、一人行けば、則ち其の友を得。」と。これは二つの対なるものが交わって一なるものが生じることを言うのである。

六四

其の疾(やまい)を損す。遄(すみや)かならしむれば喜(よろこび)有り。咎无し。
象に曰く、其の疾を損すとは、亦(また)、喜ぶ可きなり。

病に罹って損する。速やかにこれを処置すれば喜びがあろう。

陰位の陰爻にして、力弱きものです。剛強なる初九が即座に飛んできて、その有り余る力を分け与えてくれるのです。

六五

或は之を益す。十朋(じっぽう)の亀(き)も違ふ克はず。元吉。
象に曰く、六五の元吉は、上より祐(たす)くるなり。

誰もがこれを益す。高価なる亀をもって占ってもそれは明らかである。天祐を得て大いなる吉。

或とは不特定多数のこと、数多くの賢人君子が六五の天子を助けるであろうことを言います。朋とは二枚の貝殻(硬貨)であり、十朋は高価なるものです。この卦は離卦の似象であり、亀の象、明晰さの象です。

上九

損せずして之を益す。咎无し。貞にして吉。往く攸有るに利し。臣を得て家无し。
象に曰く、損せずして之を益すとは、大いに志を得るなり。

もはや損する者に非ず、天下を益する。咎はない。正しい道を堅く守り通せば吉。進むべきところに進んでよろしい。多くの家臣を得て家は一つにまとまるであろう。

損せずして之を益す、は九二と同じですが、意味合いは全く異なります。損が窮まって益に転じたのです。外卦は困窮し、内卦の施しを得ておりましたが、上九に至ってその施しを天下に益し与える立場となったのです。

まとめ

内卦の兌は損し与える立場です。初九は六四のために仕事の手を休めて駆けつけ、九二は中徳をはたらかせて己を損せずして六五を益し、六三は内卦を飛び出し外卦を益して居場所を得ます。

外卦の艮は施しを受ける立場です。六四は窮乏の余り病に伏し、六五は多くの臣民から尊敬されて施されます。上九に至って遂に窮乏を脱し、逆に施す立場となるのです。

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