58.兌為沢(だいたく)~和楽愉悦①

六十四卦の五十八番目、兌為沢の卦です。
爻辞はこちらです。
https://note.com/northmirise/n/n52fb60d08c26

58兌為沢

1.序卦伝

入りて後に之を説(よろこ)ぶ。故に之を受くるに兌を以てす。兌とは説ぶなり。

放浪して行き所のない人が(火山旅)、入って落ち着く場所を得ると(巽為風)、そこで受け入れられて大いに悦びます。

よって、巽為風の卦の後ろには、兌為沢の卦が来るのです。兌とは悦ぶという意味です。

2.雑卦伝

兌は見(あら)はれるなり。

巽卦は一本の陰爻が陽爻の下に潜んでおりましたが、この卦は真逆の形であり、陰爻が外に現れ出ているのです。陽爻の寵愛を受けて悦んでいる形なのです。

3.卦辞

兌は亨る。貞しきに利し。

兌為沢の「兌」は、悦びを表すものであり、または少女、沢を表すものでもあります。

兌卦の形は、一本の陰爻が二本の陽爻の上に乗っている形です。この陰爻が人間で言うところの顔の部分に当たります。つまり顔が上を向いており、笑っているのです。

兌為沢の前にある巽為風の巽卦は、顔が下を向いている形です。つまり上位にある者が、下位にある民衆に向けて命令を発しているのです。兌卦は真逆の形であります。巽卦の上司の命令を受ける立場と見ることも出来るのですが、ここでは上を向いて悦び笑うことに重点を置いて解釈するのです。人は機嫌よく悦んでいるときは、自然と上を向くものです。

そして一本の陰爻は、二本の陽爻に持ち上げられて悦んでいる、と見ることも出来ます。陰爻は、本来ならば陽爻の下にあって服従すべき立場ですが、ここでは持ち上げられて調子に乗っているのです。

家族関係に喩えれば、兌卦は少女です。これは陰爻の位置から解釈されるものであり、陰爻が初爻にある巽卦が長女、中位にある離卦が次女、上爻にある兌卦が三女すなわち末の少女ということです。つまり年若き少女が持ち上げられて調子に乗って笑っているのです。

八卦すなわち天地間のシンボルとしてみれば、兌卦は沢です。我が国の風景としては川に近い印象ですが、易は中国発祥ですので、巨大な中国大陸をイメージする必要があります。ここで言うところの沢は、川というよりは湖あるいは海に近いイメージでしょう。

水という意味では坎卦と同類ですが、坎卦の初爻の陰爻が陽爻に変化して、底の部分が堰き止められて、水が蓄えられているのです。そして蓄えられた水は万物を潤して、万物は皆悦んでいるのです。

かくの如くして悦ばしい意味が満載の卦でありますから、当然ながら亨るのであります。しかしながら一方ではお調子者の感を免れない部分もありますので、貞しきに利し、という戒めもなされているのです。

そして忘れてはならないことですが、兌卦は「毀損」を意味するものでもあります。乾卦の上部(表面)が壊れているのです。悦び過ぎて調子に乗り過ぎてしまうと、どこかで下手を打ってしまう、という戒めが隠されているのです。

初爻変は、沢水困です。底の部分が決壊すると、水が漏れて沢が枯れてしまうのです。

二爻変は、沢雷随です。九二が六二に変じて正位となり、九五と応ずることによって、弛んだ気持ちが引き締まるのです。

三爻変は、沢天夬です。ここで行き過ぎてしまうと我が身に跳ね返りますので、自制して用心すべきでしょう。

四爻変は、水沢節です。初爻変の決壊が止まった形です。調子に乗り過ぎることなく、節制を図るべきです。

五爻変は、雷沢帰妹です。調子に乗って礼に外れるようなことは決してあってはならないのです。

上爻変は、天沢履です。調子に乗るな、との戒めが繰り返されており、少々しつこさを感じるほどですが、この戒めは正しいのです。

綜卦は、巽為風です。顔の向きが逆になります。

裏卦は、艮為山です。これもまた戒めと解釈すべきでしょう。

4.彖伝

彖に曰く、兌は説(よろこ)ぶなり。剛は中にして柔は外なり。説びて以て貞しきに利し。是を以て天に順ひて人に応ず。説びて以て民に先だてば、民、其の労を忘る。説びて以て難を犯せば、民、其の死を忘る。説びの大なる、民勧(つと)むかな。

兌は説ぶなり。上述の通り、兌とは悦ぶことを意味するものです。

剛は中にして柔は外なり。九五と九二、共に陽剛中正であり、その上に陰爻が乗っている形です。内側は陽剛にして、外側が柔順であるのです。つまり心が誠実であって、人に接するときは物腰柔らかいのです。

説びて以て貞しきに利し。このような徳があってこそ、物事は上手く運んで伸び栄えるのです。

是を以て天に順ひて人に応ず。そこで天の道にぴたりと順うのであって、人民の心にも応ずるのです。

説びて以て民に先だてば、民、其の労を忘る。説びて以て難を犯せば、民、其の死を忘る。人の上に立つ者がまず兌の心持ちをもって先頭に立つことによって、人民はその後ろに続いて労苦を忘れて順うのです。難事を犯す場合においても、辛苦に偏り過ぎることなく兌の心持ちをもってすれば、人民もまた悦んで、死ぬことすらも顧みず、進んで難事に当たるのです。

説びの大なる、民勧むかな。兌の徳というものは、このようにして民が一丸となって進むべき徳であり、その意義はまことに大いなるものなのです。

5.象伝

象に曰く、麗沢(れいたく)は兌なり。君子以て朋友講習す。

沢が二つ並んで互いに麗(うるお)し合っている形が、兌為沢です。

君子はこの卦の形をみて、友と一緒に学んで教え合うのです。口先をもって喋る形が二つ並んでいるので、そのような解釈になるのです。

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