21.火雷噬嗑(からいぜいごう)~嚙み砕く①

六十四卦の二十一番目、火雷噬嗑の卦です。
爻辞はこちらです。
https://note.com/northmirise/n/n0affcf868c42

21火雷噬嗑

1.序卦伝

観る可くして後に合う所あり。故に之を受くるにを噬嗑を以てす。嗑とは合うなり。

風地観の卦で人々から仰ぎ観られるようになると、次第にその人々が慕い寄って来るようになります。つまり合同するということです。

一方で、異なる者同士の合同は、すんなりと運ぶものではありません。必ず噛み合わない部分が生じます。その嚙み合わない部分を粉砕することによって、ようやく合同することができます。噬嗑とは、粉砕して嚙み合わせることをいいます。

2.雑卦伝

噬嗑は食(くら)ふなり。

口を開けた状態で、邪魔な九四の障害物があります。これを嚙み砕いて飲み込み、上下の顎を合わせるのです。

3.卦辞

噬嗑は亨る。獄を用ふるに利し。

噬嗑の卦は、山雷頤の卦に邪魔物が挟まっている形です。邪魔物とは九四のことです。山雷頤の卦は、上の艮の卦が上顎で、下の震の卦が下顎です。上顎は動かず止まっており、下顎が動くことによって食べ物は嚙み砕かれて飲み込まれ、そこから食道を通って胃に入り、人の栄養分となります。

この噬嗑の卦は、九四の障害物があって、うまく飲み込むことができない状態です。魚の骨のようなものをイメージすればよいです。魚を食べるにあたって、その骨が邪魔となって喉を通すことができていないのです。では一体どうすればいいのかというと、答えは一つです。その九四を嚙み砕くしかありません。

外卦の離の卦は「麗く」であり、すなわち九四が上顎の部分にくっ付いて離れない状況にあることを意味しております。また、互卦の外卦は坎の卦であり、同じく内卦は艮の卦です。共に九四の陽爻が鍵となっており、坎の卦では九四が落とし穴にはまって身動きが取れない状況にあること、艮の卦では九四が止まって動かない状況にあることを意味しております。

ここで言うところの九四は、あらゆる物事が該当し得られます。むしろあらゆる物事において、噬嗑の状況を通過しないケースの方が珍しいのではないでしょうか。あらゆる物事には必ず障害物があり、その障害物を嚙み砕いて通過するのか、それとも引き下がるサインであると判断して引き下がるのか、私たちはいつも二者択一の選択を要求されています。この噬嗑の卦は、嚙み砕いて前に進みなさい、と言っているのです。諦めて引き下がるべきではない、と言っているのです。

ですから、思いっきり嚙み砕いて、前に進むべきなのです。あなたはそれを望んでいるはずなのです。初志を貫徹するのです。だから願い事は「亨る」のです。

しかし、余りに強引に嚙み砕こうとすればするほど、九四は抵抗します。柔和な陰の力をもって、これに対処すべきです。六五と六二の中徳の位が共に陰爻であることが、それを象徴しております。また、外卦の離の卦は明晰であり、内卦の震の卦は躍動です。明晰さを発揮して、かつ柔和さをもって動くのです。

この卦が出たときは、刑罰を処してもよろしい、とあります。まさに九四を嚙み砕く、ということに他ならないのですが、中位が共に陰爻であるからこそ、絶好のタイミングなのです。刑罰は厳しすぎてはいけないのです。陰の柔和さをもって処するべきなのです。

4.彖伝

彖に曰く、頤中(いちゅう)に物有るは噬嗑という。噬嗑して亨る。剛柔分れ、動きて明らかなり。雷電(らいでん)合(がっ)して章(あきら)かなり。柔、中を得て上行す。位に当らずと雖(いえど)も、獄を用ふるに利しきなり。

山雷頤の卦の中に九四の障害物が挟まっている形が、噬嗑の卦です。これを嚙み砕いて、上顎と下顎を合わせることによって、願い事は通ります。

内卦の震の卦は陽の卦であり、外卦の離の卦は陰の卦です。山雷頤はどちらも陽の卦ですが、噬嗑の卦は陰と陽の卦が組み合わさっている形です。三陰三陽の卦でもあり、陰と陽がはっきりと二頭分されており、弁別される形でもあります。

また震の卦は雷、離の卦は稲妻を象するものでもあり、合わせて雷電となります。刑罰を用うるに利しい、とは、このような白黒の付けやすさにあるとも解釈できます。

柔、中を得て上行すとは、本来は陽位である五爻の位置に、陰爻が収まっているということです。不正位ですが、刑罰を判断する立場にある五爻の位置が陰爻であることが、むしろ幸いなのです。柔和なる徳をもって、厳しさに過ぎることなく白黒つけて処するからです。

5.象伝

象に曰く、雷電は噬嗑なり。先王以て罰を明らかにして法を敕(ととの)ふ。

離の卦と震の卦の和合によって雷電が大空に轟きわたる形が、火雷噬嗑です。

君子はこの卦をみて、刑罰を明らかに処するとともに、法を厳粛に整えて政治を執り行うのです。

6.繋辞下伝

繋辞下伝の第二章より抜粋します。

日中に市(いち)を為し、天下の民を致し、天下の貨を聚(あつ)め、交易して退き、各々其の所を得たり。蓋(けだ)し諸(これ)を噬嗑に取る。

古代中国の神農氏は、日中に市場を開いて天下の民をそこに集まらせて、天下の財貨を集約させて物資を交易させることによって、それらの財貨や物資は市場を通じて出入りするようになり、天下の民はその便利さを享受して生活を豊かにしたのです。

これは恐らく、火雷噬嗑の卦をもって工夫されたのでありましょう。外卦の太陽が天上にあるとき、内卦の人々は盛んに動きます。また物々交換の障害となる物事すなわち九四を取り除くことによって、平易に交易できるようになったのです。

自己の内的探求を通じて、その成果を少しずつ発信することにより世界の調和に貢献したいと思っております。応援よろしくお願いいたします。