パルメニデス以前の哲学者たち③ アナクシマンドロス(前7~6世紀)

タレスの後に続く哲学者は、アナクシマンドロスとアナクシメネスである。タレスを含めたこの三人は、いずれもミレトスの人であるため、合わせてミレトス学派と称される。

アナクシマンドロスは、タレスの弟子である。生前は多くの著作を遺したと言われているが、現在はほぼ消失されており、段片的な記録が残るのみである。その僅かな記録によれば、彼は万物のアルケーは「ト・アペイロン(無限定なもの)」だと主張した。
師匠のタレスは「アルケーは水である」と言った。これがどこまで本気であったかは、正直なところ定かではない。確かにこの世界は、水で満ち溢れている。海、川、雨、そして私たちの体内を流れる血液など。
水が凍れば凝縮して氷となり、熱くなれば拡散して蒸発する。その形はなく変幻自在である。確かにアルケーである、と思えるフシは無くもない。
その一方で、水では説明の付かないこともある。例えば熱い火、これのアルケーが水であるとは到底思えない。あるいはカラカラに乾いた空気、これもまた水がアルケーであるとは思えない。

そう考えると、水はアルケーに「近い」ものではあるかもしれないが、アルケーそのものであるかと言われれば、疑問符が付く。タレスは七賢人の一人と呼ばれるぐらい明晰な人であったから、それぐらいは分かりそうなものである。だからタレスがどこまで本気で「アルケーは水」と断言したのかは謎である。
いずれにせよ、アナクシマンドロスはそこに疑問を抱いたようであり、アルケーはもっと守備範囲の広いものであり、あらゆるモノや状態を包含すべきものでなければならないと考え、そして最終結論としてト・アペイロンに至ったのだろうと思われる。

そしてアナクシマンドロスによれば、このト・アペイロンは何らかの秩序をもって生成消滅するものと考えていたようである。確かにこの世界は、何らかの秩序をもって動いているように見える。太陽や月の運行然り、春夏秋冬の四時然り、禽獣草木の食物連鎖然り。この世界全体の運行は決してカオスではなく、何らかの意志がはたらいていると考えても決して不思議ではない。アナクシマンドロスは、そこにト・アペイロンの動的な秩序をみたのであろう。

しかしながら、ト・アペイロンがアルケーです、と言われても、何やら漠然としており、今一つの感が否めない。
そこで次に登場するのが、アナクシメネスである。

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