42.風雷益(ふうらいえき)~自分への褒美②

六十四卦の四十二番目、風雷益の爻辞です。
卦辞はこちらです。
https://note.com/northmirise/n/nbf9d8c48442f

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主爻

成卦の主爻は初九と六四、主卦の主爻は六二と九五です。初九と六四は上を損して下を益すはたらきであり、そのはたらきを受けて六二と九五が天下に恩沢を施します。

初九

用つて大作を為すに利し。元吉。咎无し。
象に曰く、元吉、咎无しとは、下、事を厚くせざるなり。

(六四の恩沢を受けて)大きな仕事を成すのがよろしい。大いに吉。下々の負担は重からずして咎はない。

初九は六四によって益したのであり、大きな仕事をすることでその恩義に報いるのです。上には坤卦の田畑があり、外卦の巽は(土の中に)入るものであり、内卦の震は動くものです。つまり鋤と鍬をもって田畑を耕すのです。事を厚くせざるとは下々を重税などで苦しめさせないことであり、それによって人民は安んじて重労働に従事し、衣食住を豊かにするのです。

六二

或は之を益(えき)す。十朋(じっぽう)の亀(き)も違ふ克(あた)はず。永貞にして吉。王、用つて帝に享す。吉。
象に曰く、或は之を益すとは、外(ほか)より来(きた)るなり。

誰もがこれを益す。高価なる亀をもって占ってもそれは明らかである。末永く正しい道を堅く守り通せば吉。(九五の)王はこれを以て天帝を祀るがよい。吉。

山沢損の六五とほぼ同じ爻辞です。正位にあるので、王が云々と一層めでたい言葉が掛けられております。或とは不特定多数のこと、数多くの賢人君子が六二を助けるであろうことを言います。朋とは二枚の貝殻(硬貨)であり、十朋は高価なるものです。この卦は離卦の似象であり、亀の象、明晰さの象です。

六三

之を益すに凶事に用ふ。咎无し。孚有り中行(ちゅうこう)あり。公(こう)に告ぐるに圭(けい)を用ふ。
象に曰く、益すに凶事を用うるは、固(もと)より之を有するなり。

凶事を乗り越えることによって益を得る。咎はない。内なる心と外なる行動が共に誠実であれ。さすれば君主に事を奏上する機会を得られよう。

圭とは、天子から賜る玉であり、諸侯の証し。固(もと)より之を有するなりとは、三爻がそもそも危い位置にあることを指します。艱難辛苦にあって、心と行いを正しく守り通すことによって、やがて天子の助力を得るのです。

六四

中行ありて公に告げて従はる。用つて依(い)を為し圀を遷(うつ)すに利し。
象に曰く、公に告げて従はるるは、益の志を以てなり。

誠実なる行動をもって君主に事を奏上し、君主はそれに従う。依るべきところを成して国を遷都するのがよろしい。

六三に続いて中行とありますが、中庸の行いと解するのが順当です。いずれも中位ではありませんが、卦全体としてみれば中位に当たります。依を為すとは、遷都という大事業を成すに当たって、天の利・人の利・地の利を総合的に判断した上でこれを実施して天下を益するのです。

九五

孚有り恵心(けいしん)あり。問ふ勿(な)くして元吉。孚有り我が徳を恵(めぐみ)とす。
象に曰く、孚有り恵心あるは、之を問ふ勿し。我が徳を恵とするは、大いに志を得るなり。

誠実なる心があって、下々に恵む心がある。斯様であれば占噬して問うまでもなく大いに吉であろう。そして下々もまた誠実なる心をもって、その徳を感謝の恵みとして受け取るであろう。

剛健中正なる理想の天子にして、六二と応じて下々に恵みを施し、下々もまたその徳に感応します。

上九

之を益す莫(な)し。或は之を撃つ。心を立つること恒(つね)勿し。凶。
象に曰く、之を益す莫しとは、偏辞(へんじ)なり。或は之を撃つとは、外(ほか)より来(きた)るなり。

(我欲に溺れて己も相手も)益すところがない。(そのような貪欲な者を)討伐する者もあろう。心のありように節操なく筋が通らない。凶。

偏辞とは、一方に偏り過ぎていることです。巽卦の窮まりにあって、強欲に過ぎます。己を益すこともなく、下々を益すこともありません。そのような態度では争いを招くことになりましょう。

上九(繋辞下伝)

繋辞下伝の第五章より抜粋します。

子曰く、君子は其の身を安くして而して後に動き、其の心を易らかにして而して後に語り、其の交りを定めて而して後に求む、君子は此の三つの者を修む、故に全(まった)きなり。危くして以て動けば、則ち民、興(くみ)せざるなり。懼れて以て語れば、民、応ぜざるなり。交り无くして求むれば、則ち民、興(あた)へざるなり。之に興(くみ)する莫(な)ければ、則ち之を傷(そこな)ふ者至る。易に曰く、之を益す莫し。或は之を撃つ。心を立つること恒(つね)无し。凶。

孔子曰く、君子はまず自分の身を安らかにした後に動き、その心を安らかにした後に言葉を発し、人との交わりを親密にした後に求める。君子はこの三箇条を修養しており、それゆえにその位置は安泰なのである。その身を危うくして動くときは、天下の人々は共に動かず、恐れて不安なる心で言葉を発するときは、人々はそれに従うことなく、親密に交わることなく求めるときは、人々はそれを与えることはない。その求めに対して与えることがないときは、その相手を傷付けるようなことがあろう。益の卦の上九に曰く「之を益す莫し。或は之を撃つ。心を立つること恒(つね)无し。凶。」と。

まとめ

外卦が施し、内卦がその施しを受ける構図です。ほぼ山沢損を引っくり返した爻辞になっております。

初九は、六四からの大いなる恩沢を受けて、それに報いるために大いなる仕事をします。六四は、国の遷都に匹敵する大事業を行って初九の下々に恩沢を与えます。

六二は、応ずる九五からの恩沢を受けて神仏の加護をも得ます。九五もまた誠実なる真心をもって六二を益します。

六三は険阻なる位置にありますが、これを克服して大なる恵みを得ます。

上九は貪欲にして恵み施すことなく、憎まれ疎まれるのです。


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