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山川直人版『猫町』はいかにして出来上がったか

4月に水窓出版より山川直人著『短篇文藝漫画集 機械・猫町・東京だより』が刊行されました。

これは漫画家の山川直人さんが横光利一・萩原朔太郎・太宰治の小説を漫画化したもの。原作も一緒に収録され、読み比べて楽しむことができます。

この本の刊行、私としてもヒジョーーーーに喜んでおります。

というのも、収録されている『猫町』は、私がタイムレスブックスというレーベルで2019年に刊行した本が元になっているものなのです。

夢想状態から実現へ

それまで、本を作ってそれを元にデザイナーたちが寄ってたかってデザインで遊ぶという企画というかイベントを何度かやっていました。太宰治や江戸川乱歩、梶井基次郎の小説を本にしていたのですが、次はよりオリジナリティのあるものにしたいと思い、『猫町』を山川さんに漫画にしてもらえないだろうかと考えたのです。

山川さんの作風と『猫町』の世界はぴったりなんじゃないか——
文藝作品の漫画化もいくつかあるし——
同人誌を作ったりしてるし、こういう遊びにものってくれるんじゃないか——

その時はあくまで夢想状態です。山川さんとは全く面識はなく、一ファンにすぎません。
ですが、知り合いのイラストレーター保光敏将さんが山川さんと一緒に同人誌を作っていることを知りました。そして都合よく山川さん・保光さんの二人展があるというではないですか。というわけでそこを訪れ、企画をプレゼンしてお願いしたのです。

『猫町』漫画化にも興味を持っていただきましたし、なんといっても10人のデザイナーが10パターンのカバーを作るということに期待していただいたようでした。「自分の本がいろんな装丁で形になるのを見てみたい」と。通常の本ではありえないことですからね。
デザイナーにとっても、自分のアイデアを試すことのできる絶好の機会です。しかも山川さんの漫画のどの部分を使ってもいいというお墨付きをいただきました。

そういうわけで原作と漫画で1冊の本として、『猫町』ができあがったのです。
10人のデザイナーの10通りのカバーと山川さんの漫画原画を展示して本の販売をする展示会も開催しました。

猫町」装丁展 萩原朔太郎×山川直人

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売り切れ…そして再生へ

この展示会で本は想像をはるかに越えて売れ、ほぼ在庫がナシに。
山川さんの人気は分かっていましたが、2,000円という高めの定価で、10種のカバーといいつつ中身は1種なのでまさかそこまで売れるとは…

カバー表1集合

10種類のカバー(バージョン違いもあり実質11種類)
左上から装丁=小川恵子、坂川朱音、坂川朱音、大滝奈緒子、折原カズヒロ、石間淳、河村誠、武中祐紀、白畠かおり、新井大輔、原田恵都子(右下は本体表4)


同じ中身なのに何種類も買ってくださる方もいて、中には全10作購入される方も。山川さんの人気をすっかり読みそこねてしまいました。

せっかく描いていただいた山川版『猫町』なのに、多くの人に読んでいただく機会がなくなってしまいました。売り切れは嬉しいことですが、これはいいことではありません。

いつかどこかの版元が単行本を作るときに収載してもらえないか——
そんな風に考えていたところ、水窓出版の高橋亮偉さんから単行本に収めたいと連絡をいただいたのです。しかも原作+漫画という形を採用されるという。なにもいうことはありません! 
これでこの作品が埋もれず、多くの人に読んでもらうことができます。さらに単行本装丁を展示会の10種カバーのうちの1種をデザインした石間淳さんが担当することになりました。

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そんなわけで山川版『猫町』は水窓出版の『短篇文藝漫画集 機械・猫町・東京だより』に収められることになったのです。
そちらについては漫画制作と出版の経緯を描いたオマケ漫画として版元のnoteに掲載されています。モノノケ…?

これを読むと『猫町』『機械』は山川さんが自発的に作品化したものではないわけですね。しかしできあがったものを見ると、どちらも山川さんの世界に完全にマッチしている。それだけ原作を自分に引きつける力のある世界観ということか。アシスタントもスクリーントーンもコンピュータも使わず、一つひとつの線を描いている山川ワールドの強さを見せていただきました。

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