「打つ方も、守る方も考える」ベースボール5の授業

1 はじめに

 以下の記事から初めてベースボール5というスポーツの存在を知った。

 まず、驚いたのがルールの工夫である。従来のベースボールでは、攻撃側はボールを遠くに飛ばすことを求められることが多い。しかし、このベースボール5では、遠くに飛ばしすぎてはいけない。また、守備や走塁についてはベースボールの醍醐味をそのまま残している。
 私はベースボール5というスポーツに大きな魅力を感じた。そこで、実際に教材化し、授業実践を試みた。
 また、今回「支える」活動についても手応えを感じることができた。「大会の企画・運営」という新しい試みを通して、スポーツと関わる楽しさを感じさせることができた。そこで得た手応えについても述べていく。

2 ベースボール型の楽しさ

 私はベースボールの一番の楽しさは、ベースにボールが先につくか、走者が先につくかというボールと走者の競争にあると思う。攻撃側はボールが到達する前に一つでも先の塁を目指す。逆に守備側は、走者よりも先にボールを塁に届けなければならない。
 その中で,攻撃側はどこに打てば先の塁まで進めるかや、どの塁までなら進むことができるか,逆に守備側はどの塁に投げれば相手の進塁を防げるかという判断局面が生まれる。
 これに加えて、捕る・投げるという基本動作ができれば、ゲームを楽しめるようにした。また、打つ動作も用具を用いない為、簡単に行えた。
 今回の実践では,必要なスキルを精選し、判断局面の楽しさを十分に味わわせるためのルールや単元の工夫をした。

3 ルールの工夫について

 ベースボール5の主なルールは以下の通りである。

・1チーム5人で行う。
<攻撃>
・自分でトスしたボールを手のひらか拳で強く叩いて打つ。
・フェアゾーン内にボールが落ちるまでバッターボックスにとどまっていなければならない。
・1塁,2塁,3塁,本塁の順に進む。本塁に触れた場合,その都度1点が記録される。
<守備>
・3人からアウト取れば,攻撃と守備が入れ替わる。
・アウトの取り方
 ①走者が目指す塁を触球する。
 ②打球がグラウンドにバウンドする前に補球する。
 ③塁上にいない走者を触球する。
https://baseballjapan.org/jpn/baseball5japan/doc/Baseball5%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%EF%BC%88%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%EF%BC%89.pdf

 今回は、3年生で実践をした。純粋にベースボールの楽しさを伝えるために、上記のルールから以下のような工夫をした。先述の通り,ベースボールがもつ楽しさを失わないよう配慮した。

【ルールの工夫】
<基本>
・1チーム6人で編成した。
<攻撃>
・チーム全員が参加。人数に差があるときは,多いチームに合わせて複数回打つプレーヤーを決めた。
・打者は、到達できた塁に応じて得点できる一塁→1点、二塁→2点、三塁→3点、本塁→4点
・打者1順したら,攻撃と守備が入れ替わる。
※単元6時間目からは,2アウトで交代。
<守備>
・守備は5人で行い、イニングごとに交代するようにした。
・ボールを保持した状態で、打者走者より先回りした塁を踏むことで走者の進塁を止められる。
(例)打者走者が1塁にいる時点で、二塁を踏む。
・アウトの取り方
 ①打球がグラウンドにバウンドする前に補球する。
 ②塁上にいない走者を触球する。
 ③一塁手は、タンブリンを持つ。一塁を踏んだ状態で、打者走者が一塁を 
  踏むより早くタンブリンにボールが当たればアウトを取れる。

 学級の実態に応じて6人でチーム編成をした。また6人であれば欠席者が出た際も対応できる。
 攻撃側の走塁については,ルールが複雑な為簡略化した。しかし,「塁上にいない走者を触球する。」という本来のルールを適用することで判断局面を確保できた。このルールがあることで,走者は次の塁に行くべきかそうでないかを判断しなくてはならない。3年生にとっては,この判断を瞬時に行うのは中々難しく,ゲームを楽しむ1つの要素となった。
 守備側のルールでは,大きく2つの工夫をした。1つ目が「ボールを保持した状態で、打者走者より先回りした塁を踏むことで走者の進塁を止められる。」である。本来であれば守備側は、どの塁に送球するかに加えて、タッチアウトかフォースアウトかも判断してプレーをしなければならない。しかし,この判断を3年生に求めるのは難しいと考えた。そこでフォースアウトのみとし,どこに送球すれば進塁を防げるかという判断局面のみに絞った。また,単元6時間目には,2アウト交代のルールを追加した。このルールを加えることでさらに児童が考える場面を増やすことができた。これについては後述する。2つ目は「一塁手は、タンブリンを持つ。一塁を踏んだ状態で、打者走者が一塁を踏むより早くタンブリンにボールが当たればアウトを取れる。」という工夫である。タンブリンを用いることで,捕るスキルが十分に身についていない児童も捕球に近い経験を積めるようにした。また,補球の可否を気にせず,強いボールを1塁に送球できるようにもなった。

4 単元の構成と授業の実際

 単元を通して、「知る、する、見る、支える」楽しさを味わえるように工夫をした。
 「知る」活動では、単元始めにパワーポイントや動画を通して、ルールやスキルの知識を得るための時間を設けた。「する」活動では、先述の通り、判断局面の楽しさを味わわせるような工夫をした。「見る」活動では、友達の試合だけではなく、YouTubeで世界大会の様子を視聴させ、様々なレベルの試合を見ることを通して、見る楽しさを味わわせた。
 最後に「支える」活動は、この単元で最も力を入れた活動である。詳細は、後述する。

①単元前半

1時間目
 1時間目はオリエンテーションを行った。チーム編成を行った後,パワーポイントや動画を用いて丁寧にルールや必要なスキルについて説明した。

2時間目
 ベースボール5の楽しさを味わわせるために試しのゲームを2種類行った。
<試しのゲーム1>
 まずはボールと走者の競争する楽しさを味わわせるために,1塁のみを使用した。攻撃側は,ボールを打ち,1塁を駆け抜けるだけである。また,守備側は,ボールを補球し,1塁に送球するだけのシンプルなルールである。そして両チームが1回ずつ攻撃をしたら,試しのゲーム2を行った。結果、試しのゲーム1を行うことで、混乱を避けられた。
<試しのゲーム2>
 通常通りのルールで行った。1時間目のオリエンテーションで丁寧にルールを説明したのと,試しのゲーム1を行ったおかげで,スムーズにゲームが進んだ。
 しかし,ゲームの展開としては,1塁悪送球が続き,そのミスで相手に4点を与えてしまうというパターンが多発した。そこで,失点を減らすためには,どうすればいいかという問いを持たせたところで授業を終了した。

②単元中盤

3時間目
 前時に生まれた「失点を減らすためには,どうすればいい?」という問いをもとに授業をスタートした。そこで,その問いを解決する為に,チームで守備練習を行った。
 練習を行っていくうちに,「1点はしょうがない」というチームがいくつか現れた。「とにかく捕球したら2塁に投げる,もしくは踏む。」という作戦だ。この作戦がはまり,これをした3チームはもれなく勝利を収めた。

4時間目
 前時に生まれた「1点はしょうがない」作戦を紹介し,守備練習をした。全員を1塁で食い止めれば,1イニングの得点を6点に抑えることができる。これを3イニング行うので,1試合の失点は18点に収まる。1イニングに24失点していた1時間目と比較すれば大きな成長である。この時間は,どの試合も20点以内のロースコアとなった。

5時間目
 4時間目の試合展開が続くと,何も考えず2塁へ送球という状態になる。そこで,2アウト交代のルールを加えた。このルールを加えたことで,大きく以下の2つに分かれた。

①1点はしょうがない作戦」
②「多少リスクはあっても2アウトを取る作戦」


②の作戦は,送球ミスをしてしまうと,大量失点のリスクがあるが,上手くいけば①の作戦よりも失点を抑えられる。無失点で抑えられる可能性もある。
 また,この作戦を加えたことで守備位置にも変化が生まれた。ミッドフィルダーと言って,2塁後方を守っていたプレーヤーを大きく前進させるチームが出てきた。こうすることで,できるだけ前で打球を処理して,アウトを取ろうというものだった。打つ力の弱い3年生には,このポジションが効果適面であった。全チームが失点を20点以内に収め,さらに失点を10点以内に収めるチームも出てくるなど,ロースコアの試合展開に拍車がかかった。
2アウト交代のルールを取り入れることで,児童の思考を促し,判断局面の楽しさをさらに味わわせることができた。

6時間目
 6時間目は,攻撃面に大きな変化が見られた。守備の工夫により,思うように点が入らないチームが多かったため,攻撃面に着目させた。今までは,最低1点を取るために,レフト方向に打つ児童がほとんどであった。そこで,点を取るためには,どこに打てばよいかという問いを持たせ,チーム練習に移った。練習の途中,「人のいないところに打てばいい」という児童がいた。そこで,その言葉を全体に点を取るためのヒントととして共有した。
 「人のいないところに打てばいい」という言葉をヒントに,様々な工夫が見られた。一番多かったのは,前進守備のミッドフィルダーの後ろを狙うというものだった。バッターボックスから出るのは遅れてしまうが,2点や3点につながるプレーになった。一部の打つ力が強い児童は,広いスペースを狙って,早いゴロを打つ様子も見られた。また,強い打球が打てない児童も空いている前のスペースにポツンと打球を転がして得点を重ねた。

③単元終盤

7時間目
 7時間目は,この単元で初めての試みをした。丸々1時間使い,「ベースボール5大会」の計画を立てた。これは,スポーツを「支える」楽しみを味わわせるための試みである。
 まず,試合の行い方や対戦相手,役割分担などを話し合い,以下のような内容が決まった。

・3つのコートを使い,勝ち上がり方式で行う。
・守備チームの出場していない人が、審判と記録を行う。
・早く試合が終わったチームは,①作戦タイム②練習③試合観戦のどれかをする。
・1試合2イニングで行う。
・試合前に5分間の練習及び作戦タイムを設ける。

 今までに、お楽しみ会等で少しずつ運営の仕方を考えさせてきた。加えて、授業の振り返りに「あったほうが良いこと」という視点を与えた。そうしたところ振り返りに「審判がいた方が良い」や「点数を記録する人がいた方が良い」などの記述が見られた。それらの経験を生かして欲しいと考え、教師からの助言は最低限とし、できるだけ子供たちに任せることにした。その話し合いの様子からこれだけ、運営の仕方について考えられるのかと感心したと同時に、「支える」という視点を与える大切さに、改めて気付かされた。
 次に「さらに試合を盛り上げるにはどうする?」と問い、その方法を考えさせた。上記に「表彰係」を加え、コート3に最後まで勝ち残ったチームに賞状を出すことになった。
 スポーツは「する」だけでないということを児童に感じさせることのできる1時間となった。「支える」視点をもって考え、意見を言うことで輝ける児童もいた。また、単元終了後にとったアンケートの「楽しかった活動はなんですか?」という質問に「大会のことを話し合ったこと」と答えた児童が複数名いた。
 運動する時間を削ることに,賛否が分かれるところだと思う。しかし,自分なりに手応えを得ることができた。

8〜9時間目
 7時間目の話し合いをもとに、大会を行った。1時間で終わらせる予定だったが、思いの外時間がかかってしまい、2時間行った。授業始めの練習、作戦タイムから時間オーバーしていた・・・笑
 正直、大人から見たら拙い部分も多々あったが、児童が自分達で考え、大会を運営したと言うことに意味があったと思う。

5 まとめ

 今回の実践も競技のもつ楽しさを十分に感じさせると共に、スポーツとの多様な関わり方を体験させることを目指した。その中でも今回の記事は「する」と「支える」の活動で得た手応えを中心に記述した。
 「する」活動では、ベースボールのもつ判断局面のもつ楽しさにフォーカスして授業を行った。「支える」活動では、大会運営を通して支える楽しさを感じられるようにした。
 そして、一番感動したのが休み時間にみんなでベースボール5をして夢中で遊んでいたことだ。これは多くの児童が楽しむことができていたという何よりの証拠だと思う。このようにスポーツが、多くの人にとって楽しい活動となるように、これからも実践を重ねていきたい。

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