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社会とつながる体育授業ー知る、する、みる、支えるの視点からー

◯はじめに

 学習指導要領には、体育科の目標について「豊かなスポーツライフを実現する資質・能力の育成」と示されている。多くの先生方が様々な実践をし、楽しい体育を実現している。学研総合教育研究所が調査した好きな教科ランキングでは、4位に体育がランクインしている。しかし、その反面で嫌いな教科でも3位にランクインしている。このことから体育は、運動が得意な子のみが楽しみ、その裏で苦手な子が辛い思いをしているということも忘れてはいけない。
 このような状況が起こるのは、「する、みる、支える」の視点で体育を見た時に、「する」の部分でしか楽しむ場面がないからだと考えられる。一歩学校の外に出て、社会でのスポーツの在り方を見ると、その関わり方や楽しみ方は多様である。新学習指導要領では、旧学習指導要領の成果として「する、みる、支えるのスポーツとの多様な関わりの必要性や公正、責任、健康、安全等、態度の内容が身についている。」と示されている。しかし、体育授業の中で子供たちにスポーツとの多様な関わり方を十分に学ばせることはできていない。そこで、「する、みる、支える」の視点に「知る」を加えることで、多様なスポーツとの関わり方を学べ、社会とつながる体育授業が実現するのではないかと考えた。

1「知る」

 まず、単元の始め、もしくは単元内で知る時間を設けることが重要である。例えば、スポーツのルールや運動の様子、戦術、練習方法などを知ることである。そうすることで、児童の意欲を高めることにつながるだろう。また、見通しをもって活動ができる。加えて、ルールやプレーの仕方、戦術などを知ることで「する」「支える」「見る」活動の充実にもつながる。子供たちから、「他にどんな作戦があるのかな?」や「もっと上手くなるにはどうすればいいのかな?」など意欲が高まった段階で、知る活動を設定するとより効果的である。子供たち自身が、作戦や練習方法を調べ、それを実践に移せるようになるのが望ましい。その為に教師は、子供たちが楽しめる教材を提供し、子供たちが魅力を感じられるような出会い方をさせなければならない。それができれば、子供たちは自分達で考え、試行錯誤しながら成長していく。教師はその活動がより円滑になるような働きかけをしていきたい。

2「する」

 体育の最大の楽しみは「する」であることに異論はないだろう。そのため教師は、全ての児童が「する」楽しみを味わえるようにしなければならない。
 全ての児童が「する」楽しさを味わえるようにするために、アカデミック先生のエッセンシャルスキルの視点を取り入れた授業作りが有効だと考える。エッセンシャルスキルとは、「その行為を遂行するために最低限必要なスキル」である。児童の実態を適切に把握し、児童全員がゲームに必要なエッセンシャルスキルをもつようなルールや内容をデザインしていく必要がある。そうすることで、児童全員が成功体験を味わい、「する」楽しさを味わうことができる。
 エッセンシャルスキルの視点を取り入れた授業デザインの詳細については、以下のアカデミック先生の記事をご覧になってほしい。

3「見る」

 生活の中で「みる」ことを通してスポーツと関わる機会が最も多いのではないだろうか。今はスタジアムや球場に行かなくても、テレビやYouTubeなどで気軽に「みる」を楽しむことができる。会場の熱気、感動、緊張を共有する喜び、好きなチームの勝利、好きな選手の活躍等、楽しみ方は多様である。
 では、これをどのようにして体育で体験させるのか。松岡ら(2002)によるとスポーツ観戦の動機は表1のように10因子32項目に分られるとしている。(表1)

表1
「https://www.waseda.jp/sports/supoken/research/2010_2/5009A078.pdf」から引用

 扱う運動や発達段階によって、この中のどれを学ばせたり、感じさせたりしたいのかを指導者が明確にもって指導にあたる必要がある。そのようにして見る際の視点を具体的に示すことが重要である。
 例えば知識に焦点を当てて見させる場合は、友達がどのような動きをしているのか、どこに相手の隙があるか、自分だったらどうするのか等、具体的な視点を示すことで、どんどんスポーツを「みる」目が養われていく。高学年においては「知る」活動を通してスポーツをみる視点を養っておくことで、子供たちから「みる」視点を挙げさせてみるのも良い。
 スポーツによっては、ルールを知らなくても、会場の一体感、仲間との感情の共有などにより楽しめるものもある。しかし、スポーツを多様な見方を学ぶことで「みる」ことをさらに楽しむことができる。また、そのようにして「みる」視点を高めることは、「支える」活動の充実にもつながってくる。

4 支える

 体育授業でいう支える活動といえば、主に審判や友達へのアドバイス、結果等の記録が考えられる。支える活動を行うにあたって、その活動が運動にどのような影響を与えるのかを考えさせたい。例えば、「審判がいないとどうなる?」「プレーしている人以外にできることってある?」等と子供たちに投げ掛ければ、子供たちなりに、その役割や効果を考えられるだろう。また、知る活動を通して、スポーツを支える方法や目的を調べさせたりするのも効果的である。自分のアドバイスが役に立ったり、記録をもとにチームの短所を克服できたり、正確やジャッジでプレーがスムーズに進んだりすれば、「支える」楽しみを味わえる。
 さらに「支える」活動として、子供たちに価値づけておきたいのが、「安全に楽しく運動できる環境を作る」ということである。道具の準備や片付けを丁寧に行うこと、場の安全を確認してから運動を始めること等、誰にでもできることがほとんどである。だからこそ、子供たちに価値ある行動だと理解させ、その重要性を感じさせたい。

◯ まとめ

 新学習指導要領にも示されている「みる、する、支える」に加えて「知る」活動を加えることで、さらに活動が充実していく。体育授業を通して、スポーツとの多様な関わり方を学び、その楽しさを味わうことで、体育授業以外でも、学校以外でもスポーツに興味をもってくれる児童が増えていってほしい。そのようにして、学校や授業だけで終わるのではなく、社会生活に生かされることを目指したのが、「社会とつながる体育授業」である。

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