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技能の伸びをタイムで感じる2人リレー

1 リレーの特性

 リレーは、走る速さに加えて、スムーズなバトンパスが求められる。走るのがいくら速くてもバトンが次の走者に渡らなければ記録は残らない。陸上競技を見ていても、このバトンパスの場面は、ものすごい緊張感に包まれる。バトンパスこそがリレーの醍醐味といっても過言ではないだろう。また、陸上競技の中では、数少ない団体種目である。陸上競技の中では、友達と協力して記録を向上させる体験を味わわせることができる数少ない種目と言えるだろう。
 一方で、タイムという一つの物差しで計られる為、勝敗や記録の優劣がつきやすい。走るのが苦手な児童の劣等感を助長してしまう恐れもある。特にリレーは、団体種目のため、走ることに苦手意識のある児童は、嫌う傾向があるように感じる。今回の実践では、この「タイム」を劣等感を助長するものから、技能の伸びを実感できるものにできるように工夫をした。

2 単元の構成

①ルール

・2人で行う。
・20mのバトンゾーン内でバトンパスを完了しなければならない。
    ※走行距離が100mと短い為、バトンゾーンは30mではなく20mとした。
・100分の1秒は切り上げる。

②単元の構成

 授業の導入では、リレーに必要な基礎感覚を遊びを通して養うために「ねことねずみ」や「ペアでしっぽとり」等を行った。その後ペアでバトンパスの練習を行った。単元後半からは、他のペアと活動する時間を設けた。「兄弟ペア」という名の一緒に活動をするペアを事前に決めておいた。兄弟ペアでバトンパスを見合い、助言し合ったり、バトンパスの様子をiPadで撮影し合ったりした。授業の最後には、成果を実感できるように記録測定を行った。

③授業の進め方や場の設定

 まず、単元の最初に個人の50m走の記録測定を行った。次にペアを決め、そのペアの50m走の合計タイムを目標として設定した。
 走る距離は、100mとして、図のように40〜60mの範囲をバトンゾーンとした。そして目標からどれだけタイムを縮められたかを得点で評価させた。記録が0.1秒縮まる毎に+1点とした。

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 スターター、計時、撮影を児童に分担させた。以下のような流れで行うとスムーズだった。

走る→待機→計時→待機→撮影orスターター

 撮影直後に動画を見る時間を設けると混乱が生じた為、撮影した動画はteamsで共有し、そこから閲覧できるようにした。その為、動画は次時のペア練習で活用する場合が多かった。

④学習カードの活用


 上記のような学習カードをExcelで作成した。黄色の部分を児童が入力するようにした。タイムとの差や得点は、自動で計算されるようにした。また、記録の伸びが視覚的にもわかるように折れ線グラフでも表した。

3 授業の実際

①1時間目

 最初は、お手本の動画を視聴させ、見よう見真似でバトンパスをさせてみた。その後、児童に困ったことを発表してもらい、学級内で共有した。以下のような困り感が挙げられた。
 ・バトンパスの時、止まってしまう。
 ・前の人とぶつかりそうになった。
 ・バトンを落としてしまった。

 実際に教師の目から見ても、止まった状態でバトンをもらっている児童がほとんどであった。解決策を児童に問うと、次のような意見が出た。
・もらう人に、スタートしてほしいタイミングで「ゴー!」という。
これを行うことで、約半分のペアは止まった状態ではなく、走り出した状態でバトンパスができるようになった。
 この段階で1回目の記録測定を行った。ほとんどの児童が、目標記録をオーバーしていた。しかし、児童なりに手ごたえを掴んでいる様子だった。

②2時間目

 1時間目の「ゴー!」と声をかける方法で繰り返し行っていると、バトンをもらう側の児童が「スタートする印をつけておけばいい!」と言った。詳しく聞いていくと、ダッシュマークのように、前走者が印を通過したら自分もスタートを切るということであった。これを全体に共有すると、バトンパスが劇的に変わった。ほぼ全部のペアが、走り出した状態でバトンの受け渡しが行えた。教師が撮影したバトンパスの動画をteamsで共有したところ、児童もその変容ぶりに驚いていた。
 記録測定では、多くのペアが目標タイムを切るか、もしくはそれに近い記録を出せた。目標記録を切ったペアについては、自己記録の更新を目標にすることを伝えた。

③3~4時間目

 3時間目の始めに、再度お手本の動画を視聴させた。最初に見た時よりも多くの気付きがあった。以下のような気付きを全体で共有した。
・バトンをもらうとき腕を上げている。
・バトンをもらう側は、一回も後ろを見ていない。
この2つの点を意識して練習に取り組んだ。特に、「後ろを見ずにバトンをもらう。」という意識をすることで、自然とよいスタートが切れるようになり、前走者もスピードを落とさずにバトンパスを行えるようになった。しかし、そうすると、前の走者が追い付けない場合が出てきた。
 そこで、この困り感を全体で共有すると、「ダッシュマークの位置を調整する」ことが挙げられた。

・ペアとの距離が詰まったら、ダッシュマークを遠くに置く。
・前走者が追い付けない時は、ダッシュマークを近くに置く。 

 この2点を意識して練習することで、スピードを落とさずにバトンパスをできるようになった。4時間目の記録測定では、すべてのペアが目標タイムを切ることができた。

④5~6時間目

 4時間目までに、ほとんどのペアがスピードを落とさずにバトンパスを行えるようになった。しかし、スピードに乗った状態でバトンの受け渡しを行うため、バトンを落としてしまうペアも出てきた。そこで、腕を意識して行っているペアに手本を示してもらい、全体の意識を腕に向けさせた。
 ダッシュマークのように明確な目印がないため、自分たちのバトンパスの様子を知ることが難しかった。そこで、iPadを用いてバトンパスの様子を撮影した。見る視点を明確にした状態で、動画撮影をしたことで、とても効果的だった。動画を活用し、フィードバックを行い、動作がどんどん良くなっていった。

4 まとめ

 2人リレーの最大のメリットは、運動量を確保できることである。単純に4人で行った時の2倍の練習量をこなすことができる。また、2人で行うことで、バトンパスの上達が直接タイムに現れる。その為、常に当事者意識をもって課題に向かうことができていた。またその分、記録の向上を嬉しく感じられたのだろう。
 単元序盤で多くの児童が目標タイムを切った。しかし、得点化することで、「もっと多くの得点を取りたい。」と目標を見失わずに行えた。
 自分自身、体育で陸上競技扱うと、どうしても技能の習得に偏った取り組みになってしまいがちである。しかし、今回の2人リレーのように、児童が楽しみながら、夢中になって練習できる仕組みを作ることで、自然と技能の向上を目指して取り組めると気付いた。改めて、2人リレーはとても魅力的な教材だと感じた。

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