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人工知能の進出で消えた投資相談部門を生き返らせる具体策

デジタルデータじゃ経営判断できない

コロナ時代の経営はビッグデータに頼るのは間違い、これからは定性データの時代だ、と申し上げてきました。

ビッグデータに頼ることの危険は、経営判断としてデータをメインにすることのもう一つの大きなリスクを指摘したいと思います。それは企業はこれからの意思決定は、「社会正義」という地球規模のテーマにどう関わっていくか、という要素がむしろデータよりも大きくなるだろうと考えるからです。

例えばLGDBに関するスタンス、ESG(環境、社会、ガバナンス)を重視しているかどうか、マイノリティ擁護の度合いなどが問われる時代です。関連している企業が社会正義に反した行動をしていても、親会社の責任が問われるような世界になってきています。

例えば、新疆ウイグル自治区問題で反対を表明するかしないのか、ブラックライブズマターに対する企業のスタンスなどなどです。

企業は利益を考えずに、世の流れつまり社会正義に寄り添えばいいとは必ずしもならず、従業員への影響、企業理念、ステークスホルダー(利害関係者)の意向など様々なファクターを勘案して意思決定しなければなりません。

コンピューターが出してきた数字は、経営判断の材料のごく一部で、それを全面的に意思決定に使うことのリスクはますます大きくなってきていると言えるでしょう。

さて、ビッグデータの次に考えなくてはならないのは、AI(人工知能)ですよね。この2つは数量的分析手法として、同列に並べてもいいと思います。しかし、ちょっと専門家の話を聞いてみましょう。

AI専門家が警告する労働問題
The Wall Street Journal2021年3月10日号(R4面)はシノベーション・ベンチャーズ社(Sinovation Ventures Inc.)の会長兼CEOのカイ・フー・リー氏に今後のAIと企業のあり方を問うています。リー氏は新刊AI superpowers: China, Silicon Valley and the New World Order(訳せば「AI超大国中国、シリコンバレーと新世界秩序」)の著者でもあります。

内容はAI開発やAIそのものについての話がほとんどで、それはどこかで聞いたような話がほとんどなので省略します。ただ、僕が引っかかったのは、次のようなWSJ(The Wall Street Journal)記者とのやり取りです。

WSJ記者:AIを使うことは企業に意味のある価値を生むんでしょうか?

リー:もちろんです。しかし、AIを導入することは、諸刃の剣です。AI導入が成功すればするほど、会社はこれまでのジョブ(職務)を取り替えるか、別のジョブに置き換える必要が出てきます。

こういうシチュエーションを今から考えなければなりません。企業はAIが利益を生むことばかり考えますが、AIが今までの職務をなくしてしまう、一部他の何かに置き換えることを余儀なくされる、というマイナス面には目をつぶります。

AIは人間の職務を代わって行うようにデザインされていますから、その職務には影響が及ぶことは避けられません。

“モーサテ”でもAI

リー氏の言うとおりになるかどうかは不透明、いやそんなこともないんですよね。テレ東のモーニングサテライトの株価予想では、もう何年も前からAIがやってますし、銀行の融資判断だってAIに一部任せてます。

「これからは定性分析の時代だ」、などとビッグデータ、AIに逆行していることを言っているわけですが、世の中「勢い」です。勢いに企業なんかすぐ飲み込まれてしまいます。特に付和雷同が平気な日本企業は、よそがやっているならウチも、となります。

さて、それではリー氏のシナリオを少し考えてみましょう。

彼の主張である、「AIで今までの職務及び働いてい他人はどうなる」というテーマですね。

例えば、銀行の投資相談部門が完全にAIに置き換わったと仮定しましょう。

暗黙知の重要性

僕は投資相談部門を、AI部門とプロフェッショナル部門の2つに分けたらどうかと思います。

投資判断はAIのほうが優秀だから、この部門はAIにあげる、乗っ取られちゃっていい、と考える経営者もいるでしょうが、それはもったいないですよ。

AIの本質的な欠陥は行間を読めないこと

AIはいくら発達しても、行間を読む力はありません。

AIには、情報と情報をつなぐ目に見えないアヤを読む力はありません。個別の顧客に対して、どういう言葉遣いをしたら腑に落ちるかの知恵もありません。投資のプロたちは、逆にそれをたくさん持っています。

たとえその知識や知恵が結果としてAIに負けたとしても、それは企業が蓄積した目に見えない”暗黙知“で、資産としてのトータルな価値はAIが提供する無機質な数字などとは価値が違うのです。

暗黙知とは、文字通り数字や文字で表現できない知で、ナレッジ・マネジメントの重要概念ですよね。

その反対が形式知、数字や数式、文字で表せる知です。どうせこれから世界中の企業が形式知の権化であるビッグデータ、AIに走るからこそ、投資判断のプロたちが蓄えた暗黙知をさらにストックし、彼ら彼女らのプロフェッショナルな業務は継続させるのです。

それが現代における最強の差別化と信じます。

また、時として、AIの成果と自分たちの成果を比較検討することも有益でしょう。

”寄り添う“という人工知能にできないサービス

AI投資相談のほうが、プロの診断より正確で、客受けがいいと言って、投資相談をAIに完全に置き換えてしまう愚は避けるべきです。そこで先程のネーミングでの差別化が出てきます。

「AI投資相談」と「プロフェッショナル投資診断部門」、です。

プロフェッショナル診断の中身は今までと変わりません。ただ、具体的なアドバイスはやめます。具体的な数字や選択のアドバイスは機械、いやAIに任せるのです。

新しいプロフェッショナルの部門はアドバイスではなく、寄り添い、です。お客に寄り添ってあげるだけでいいのです、別の言葉でいうと「コーチング」です。

どういう基準で投資をしたらいいか、今の世界状況はこうだから、この業種の株がいい、それはこれまでと同じですが、ズバリのおすすめ、結論は言わない。AIと比べられちゃうから。

お客さんは価格の安いAI投資相談を選ぶこともできるし、人間っぽい、愚痴も言える、雑談もできる、結論は言わないけれど、頼りになる人間相談も選べる。コロナの時代、人は嫌というほど、話し相手の重要性に目覚めました。この人間らしいサービスには追い風が吹きます。

以上、リー氏の「AI使うのはいいけど、労働問題をどうにかしろよ」という提言に俺流で答えてみました。

今日も最後まで読んで頂きありがとうございました。

また明日お目にかかりましょう。

野呂一郎

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