独り歩く

 小雨が降っていた。そして夜が更けていた。髪が濡れないようにウィンドブレーカーのフードを被る。私は散歩が好きだ。地に足を踏みしめる感覚が私が生きていることを証明しているみたいだから。

歩くことは生きることだと思う。止まったまま生きられる人なんていないと思う。それってただの人形でしょ? 人だけじゃなくて動物もみんなそう。犬もゾウもトリもアリもアメーバだって。植物もそう。花粉を飛ばすことが私たちでいう歩くことだと思う。

人気のない路地裏の方に入っていく。でもふと思うの。誰も私のことを見ていないのに、私が今ここにいるということはどうやって証明できるのだろうって。ここまで私が歩いてきたことを誰かが証明してくれるのかって。

側に立っている標識は随分錆び付いていた。
あなたは私がここにいることを証明してくれるの?雨音が強まる。止まらないわよ。声をかけられない限り。さようなら。雨音だけが強く響いていた。

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