B39-2021-20 一人称単数 村上春樹

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 仕事から家に帰ると部屋にいたのはいっぴきのカエルだった、あの短編小説も心に残る作品だったけど、温泉につかっているといっぴきの猿が入ってくるのも凄い話ではないか。
 音楽がはじまってアドリブ。転調をくりかえしながら、この話がどう転がっていくのか。大丈夫なのか。(作品的に)大けがをするのではないか。
 構成がかなり強引でも村上春樹の腰の落ち着き方は尋常ではない。
 何も問題ない、安心してこの船にのっていて下さい、と云わんばかりだ。
 そうして読みすすめていくと、この不思議な光景にいつしか身体と頭が慣れてくる。気がつけば向こうから物語がやってくるのではなく、こちらから身を寄せていくかっこうになる。その、のめりこませ方に読み終わってしばらくしてから呆然となる。
 すぐれたパーカッショニストである村上春樹はそれでも、これだけ外連味のあるプレイでも一番大事な音は叩かない。
 

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