ノリユキ

本を読む パンクロックを聴くやうに

ノリユキ

本を読む パンクロックを聴くやうに

最近の記事

ロックン・ロールの向こう側

突然キャラクターが変わったものだから、一番驚いたのはクラスの女子だった。 小学の時はそれなりに友だちもいて、男子限定ではあるけれどもそこそこに人気もあった。くだらないジョークも口にしてたし。 しかし中学に上がるとまるで、言葉を失くした聾唖のように身体の廻りにバリアーを張るようになった。 いや、意識してバリアーを張ってたわけではない。 自然とそうなっていった、としか云いようがない。 クラスの女子は、どうしたの?何かあったの?、と時には遠回しに、時には単刀直入に訊いてきたが、俺に

    • あやまってくれ。ほんとに、夜に。

      彼女に恋をする。 声を聞きたいと思う。 どんな話でもいいから、話をしたいと思う。 とはいえ僕は話が上手く出来ないから、もっぱら彼女の話を聞いていたい。 彼女に料理を作ってあげたいと考える。 肉じゃがなど。 喜んでくれたらいいなと思う。 美味しく出来るかどうか、自信がないけど。 一緒にテレビを見たいと思う。 くだらないヴァラエティ番組を観て二人でけなしたい。 莫迦だよねー、って云ってチャンネルを変えるんだ。 どんな笑い方を彼女はするだろう。 どんな声で彼女は笑うだろう。 彼女

      • 君に似合うのは土曜日だよ。

        紙幣が新しくなった7月。2024年の。 自分の明日がどうなるのかまったくわからない7月。2024年だ。 先月末で、勤めていた会社を辞めて独立。静かな日常。 静かすぎる。 電話もあまり鳴らない。 一日のほとんどを、パソコンを眺めることで流れてゆく。 気まぐれに本を持ち、紙に書かれた活字を追う。 すぐれた本はほんとうに素晴らしいと思う。 物語もいいけれど僕は短歌や俳句も好きだ。 この短い詩型に凝縮された”物語”を、想像とも妄想ともつかない思考の中で想うとき、果てしない世界が拡がっ

        • 生きることが自由だと教えてくれる

          出来るだけ下手に書いてね。 ほんとうの事は云わないで。 韜晦と暗喩に満ちたアテのない手紙みたいに。 ピアノを弾くようにタイプして御覧。 決して読書感想文を書かないように。そんなものは他の連中にまかせておけばいい。 あらすじなんか、どうでもいいのさ。 本の中身なんか説明不要だ。 そこに何が書いてあるのかなんてどうせ季節で変わるんだから。 いい意味で。 そして悪い意味でも。 唐突な感じがとても好き。 ただでさえ突拍子もないのにさ。 頭の中でバグを起こすくらい混乱させてくれよ。

        ロックン・ロールの向こう側

          ペッパーズ・ゴースト

          バブーシュカ・レディって、知ってるかい? 僕はこの本ではじめてその存在を知ったよ。ケネディ。 先日の夜、仕事帰り、ラッキーに買い物に行ったんだ。 すると小さな女の子と、そのお父さんが買い物に来ていた。 セルフレジでとなりになって、お父さんは肉のパックを手にして何やらぶつぶつ云っている。 その足元で女の子は買ってもらったお菓子を持って跳ねている。 お父さんはバーコードを読み取れない肉パックを持って店員さんに声をかける。 店員さんが適切な処置をして、ようやく支払いを済ませる。

          ペッパーズ・ゴースト

          「わたし走り方少し変だったんだよね」と彼女がわらった。

          どんな言葉で謝ればいい? 隣りで眠るのは亜麻色の髪の女だった。 彼女はキャバクラで働いていた。 といっても、社交さんではなく今ではキャストの女の子たちにアドバイスをしたり、フォローをしたりする立場、いわゆる黒服の女性版だった。 もともとは本人も客につき、サーヴする側にいた。 その頃の彼女は、指名はいつもトップで(写真指も本指もずば抜けていた)、客にもスタッフにも評判のいい娘だった。 すすきのの目立つビルに、彼女がモデルになったお店の広告看板が掲げられていた。 お

          「わたし走り方少し変だったんだよね」と彼女がわらった。

          そこがお花畑ではないのを知っている

          あたし、決めたわ。 今夜は親子丼を拵えるって。 道行く彼女らも夕暮れ時、ヒールの音を響かせて家路に向かう。 そうして部屋で彼の帰りを待つのかしら。 エプロンをして、キッチンに立って。 とりあえず抱き合うまでの時間を逆算して彼女らも心の準備を決める。 そこがお花畑ではないのを知っている。 ユーミンのCDだけは忘れない。 むかし知り合ったばかりの頃を時々思い出す。 いろんなことが変わったとあらためて考える。 そのひとつは、彼の語彙が少し増えたこと。 かなしみは平行線で、倖せか

          そこがお花畑ではないのを知っている

          レコードで音楽が聴きたい夜

          気付の一杯のごとく、昼間からビールを呑んで本を広げる。 これでもう車の運転は出来ない。すなわち自由に遠出も出来なくなったという事である。 そのようにして自らをじわじわと縛り、中る当てもない賭け事にも興ずる。 特段これといって目的もなければ、ゆっくりとその酒をあじわい、気まぐれに録画してあった映画なんかも流してみる。 逃げれば逃げるほど、それは追いかけてくるから。 あやまらなければならない事、たくさんある。 あの子にも自分にも。 あの人にもこの人にも。 チョコレートの中毒だ

          レコードで音楽が聴きたい夜

          わたしたちはみな、病気なのだから

          ペニスのいちばん先端部分を、舌の先でもてあそばれているような感覚で僕は彼女と向き合っていた。 アルコールのせいではない。 彼女との会話はまるで性行為そのものだった。 そこには台本も段取りもなく、すべてはLIVEだった。 どこにどう転がっていくのか判らない会話。 拡がったり、フェイドアウトしていったりの繰り返しで時間は過ぎていった。 ある話題には満開の桜花が咲き、また違ったやりとりは深い沼の中に沈んでいった。 沈んでいった可哀そうなコンテンツは人知れず、暗い森の中で人知れず、人

          わたしたちはみな、病気なのだから

          気まぐれじゃなかったんだね

          気まぐれだったのさ。 すすきのにはもう行けない。若い人たちばかりだから。 僕がもう少し若い頃、路上で喧嘩もしたっけな。 最後は尻尾巻いて逃げたっけ。 地下鉄に乗って帰った。無賃乗車をしようとしたけどバレて怒られた。 駅員さんに。 血だらけのTシャツを着て翌日、あいつらを探し回った。 探し疲れてローソンに入ったら、店員の青年が訝しげに僕を見た。 ああ、昭和の時代さ。 ビルの地下にある店には、むかし自衛隊で働いていた女がいた。 自衛隊の中で具体的に何をしていたのか判らないが、

          気まぐれじゃなかったんだね

          小さなブルー。

          ロックの「ク」。2009年に忌野さんは亡くなった。その翌年2010年。パーカーさんが亡くなり、ロックの「ロク」、2006年にブラウンさんは亡くなっている。 ブラウンさんはクリスマスの日に。チャプリンさんもクリスマスの日。その朝に。 ブラウンさんが亡くなった翌年、すぐに山下さんは自身の番組で追悼のプログラムを組んだ。これがよかった。 エンドレスでブラウンさんの曲を流したのだ。それもたしか記憶をたどれば2週にわたって。 この時の放送にはずいぶんと毀誉褒貶があったようだ。 みんな同

          小さなブルー。

          君は君の言葉で語れ

          当世風の名前をもつヤングマンが、当世風の言葉を用いてうたう歌はひどくリズミカルで、当世風云い回しのオンパレードだ。 ほとほと嫌気がさして表に出れば、これまたカラフルな世界が煌めいて俺は立ち眩み。 他の誰とも似ていない何かを模索するのではなく、他の誰かと類似する何かに依存することで安堵する気持ちの悪さよ。 道ゆく少年少女は祈るがごとく持つ携帯電話、で、その表情を照らし続ける。 まるで先行く未来の暗示のように。 ラジオから、偶然聞こえるなごり雪。 あの時のやさしい嘘を俺は忘れな

          君は君の言葉で語れ

          深夜の2時じゃなくてよかったよ

          午後2時に死にたくなる。 午後2時なると、死にたくなる。 午后の2時、になると、死にたくなる。 14時になれば。 雨が降ってるんなら、まだいい。 雨に打たれりゃ、まだ気も紛れる。 けれど晴天の14時はヤバい。独りで歩いてんなら、尚のこと。 深夜の2時じゃなくてよかったよ。 深夜の2時なら行動力の有無によっては、カマしてたかも。 この気持ち。年末まで引っ張るのかしら。 それともこの夏で終わるのかしら。 雨が降ってりゃまだ許される。 赦される。ゆるされる。 地下にあるアダルトシ

          深夜の2時じゃなくてよかったよ

          一瞬となる世界

          生まれてからまだ10年も経っていない、かよわき者どもが集い、 いちにちの半分をひとつの教室で一緒に過ごすという事を考えてみるに、 それは結構無理があるように私なんかは思う。 感性が強い子ほど傷つくだろうし、野生児みたいな子ほど秩序を持たないからだ。 しかしそうは云ってみてもしょうがない。 生まれてからまだ10年しか経っていないからこそ、柔軟性があり適応可能性もあると判断すれば、それはそれでひとつの意義もあるのだろう。 生まれたての個性。これでもか、という程のエナジー。そしてカ

          一瞬となる世界

          こどもがいつでも光っている

          こどもが書いた作文を読みたい。 こどもがつづった詩も読みたい。 こどもが描いた絵を眺めたい。 こどもが唄う歌はいらない。 こどもが踊る舞台もいらない。 炊きあがったばかりのご飯が食べたい。 こどもが考えるクイズに笑う。 こどもが騙す嘘に酔いたい。 こどもが笑う声を聞きたい。 こどもが握るこぶしがかわいい。 くるまがはしる危険な道路。 こどもはよおく気をつけて。 胸に抱えた絵本などを、 こどもは大事に家に持って帰る。 こどもが食べる口元を見たい。 こどもが泣いた涙のしずく。 そ

          こどもがいつでも光っている

          なんにも喋らないで僕たちは

          君はじょうずに絵が描ける。 君は自由に絵が描ける。 思ったとおりに絵が描ける。 展覧会で褒められる。大きな賞を獲れるわけじゃないが とてもじょうずに絵が描ける。 僕にはとても真似が出来ない。 僕にはとても そんな事は出来ないのさ。 君はとても頭が切れる。 とんちが利いて尊敬される。 自分が思っているよりずっと、人望が厚い君。 誰も気がつかなかった盲点を いともたやすく見つける君だ。 君はきっと大物になる。 いやもうなっているかも知れない君は。 君にはとてもかなわない僕なのさ

          なんにも喋らないで僕たちは