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エッセイ 漱石と『貧乏物語』

 いま、座標軸を使いながら、立体的に、漱石の『明暗』を読んでいます。面白いことに気づきました。『明暗』が1916(大正5)年の朝日新聞に連載されているほぼ同時期に、大阪朝日新聞に河上肇の『貧乏物語』が連載されて好評を博しているのです。漱石は政治や経済のことにはあまり関心がないと思っていたのですが、『明暗』には「階級」とか、「貧乏」とか、そのものズバリ「社会主義」という言葉が結構頻繁に出てきます。かなり社会主義を意識しているのがわかります。河上肇の『貧乏物語』が気にならないわけはなかっただろうと思います。漱石の命を縮めたのは、案外『貧乏物語』かもしれません。
 それに加えて、これはネットでたまたま知ったことなのですが、『明暗』の主人公津田由雄が苦労しながら読んでいる洋書(新潮文庫『明暗』上P16)は、マルクスの『資本論』ではないかというのです。漱石がロンドン時代に『資本論』を入手していたことは事実らしいので、信憑性のある話です。
 私にとって、漱石の西洋思想との格闘ぶりの新しい側面が伺える貴重な情報でした。

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