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続・座標軸 夏目漱石『明暗』追加編

 続・座標軸 夏目漱石『明暗』編で書き忘れたというより、書き足したいことができたので、別記事として書くことにする。
 先の記事では、主に登場人物について書いたが、「お金」、「物」に視点を当てて見ると、また違った風景が見えてくる。この小説には「津田の痔の手術代」というお金、「津田家の生活費」というお金、「小林への餞別」というお金・・・とお金の問題が随所に出てくる。そして「物」としては津田の古くなった「外套」がかなり重要な役割を持って登場する。これらの「お金」や「物」が上流階級~中流階級~下流階級と、縦の軸の間を動き回るのである。つまり、階級間の人間関係の有り様に「お金」や「物」がどのように関わってくるかを、漱石は、調べようとしていると思われる。
 資本主義社会に身を置く人間としては、「お金」を無視しては生きていけない。「お金」を借りようと思えば、お世辞のひとつも言わなければならないし、逆に、貸す立場になれば、多少上から目線で物が言えるようになる。しかし、(社会主義者の)小林だけは、そういうしがらみに囚われない。小林は朝鮮へ旅立つ前に、防寒具として、津田から着古しの外套を半ば強引に譲り受ける。(外套は「延子を奪う」ことの暗示かもしれないとふと思った)遠慮するわけでもなく、悪びれるわけでもなく。さらに30円の餞別も受け取る。しかもその一部を自分より貧しい友人に与えてしまう。小林のような人間は常識がないと言って嫌われる。津田由雄からも、津田延子からも嫌われる。しかし、漱石は嫌ってはいない。むしろ、そんな風に自分も生きてみたかったという、もう一人の漱石の分身なのかもしれない。

 『明暗』の解釈について追加をしたわけだが、これは書き忘れではない。図を見ていて思いついたのである。これが前回にも書いた、「書いたら終わり」ではないということである。むしろ書くことがスタートなのである。


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