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新しい靴を履いた日は。『足音 ~Be Strong』

冬から春に移りかわる、境目の季節が一番好きだ。

冬の間ずっと着ていたコートを脱いで恐る恐る外に出て、全身で柔らかくなった空気を感じられる。
そんな日は、毎朝の通勤だってウキウキして、歩いていて心が弾む。
(で、帰る頃には夜の肌寒さに後悔したりする。)

新しい靴を履いた日は それだけで世界が違って見えた
昨日までと違った自分の足音が どこか嬉しくて
あてもなく隣の町まで 何も考えずしばらく歩いて
「こんなことも最近はしてなかったな…」ってぼんやり思った

Mr.Children『足音 ~Be Strong』の歌いだしは、そんな日常の中のふとしたわくわくを、一瞬で掬い取ってくれるようだ。
靴を変えただけで見慣れた街の見え方が変わって、ちょっと遠くまで足を延ばしてみたくなる。
そんな体験や気持ちも、一種の「旅」といってもいいのかもしれない。

ただ新しい靴は、時には楽しかったり気持ち良いだけのものじゃない。

例えば僕は卸したての革靴がいつも苦手で、ゴツゴツしていて、くるぶしが擦れて、慣れるまでにいつも時間がかかる。
そんな革靴も、何日も立てば次第に柔らかくなって足に馴染んで、履き潰してしまう頃には何とも名残惜しい気持ちになる。
そして新しい革靴で初めて家を出るときは、また馴染むまでの痛みと戦うちょっとした勇気が必要なのだ。

4月、新しい環境で生活をはじめている人も多いだろう。
新しい靴に履き替えて、昨日までと違う足音に喜びを感じている人もいれば、慣れない靴擦れに苦労している人もいるかもしれない。

春の柔らかい風のような幸せは、4月も半ばを過ぎてしまえばすぐに薄れてしまって、当たり前になってしまう。
それはちょうど、足に馴染んできた靴に足を入れるときに、感謝なんてしないように。

だから、靴擦れのような何かの変わり目で感じる痛みは、時としてそんな当たり前の喜びを、思い出させてくれるものなのだと思う。

これは僕が好きな、二番の歌いだしのフレーズ。

疲れて歩けないんなら 立ち止まってしがみついていれば
地球は回っていって きっといい方向へ 僕らを運んでくれる

「一歩ずつでも、歩き出そう」という応援歌でもありながら、歩き出せないカッコ悪い日にだってちゃんと意味はあるよと、そう寄り添ってくれるのが櫻井さんの綴る世界観の真骨頂だと僕は思っている。

そう、地球は回っていて、もうすぐ初夏がやってくる。

季節の変わり目に、なんてことのない喜びと痛みを感じられるようでありたいなと思いながら、今日もまた家を出る。


◇◇◇


この曲がMr.Childrenデビュー当初からずっと組んできたプロデューサーの小林武史のもとを離れ、初めてセルフプロデュースに挑戦した時期の楽曲であることを踏まえて聴くと、また違った楽しみ方が出来る。

他にもこの曲については書いてみたい切り口がいくつかあるので(この歌に象徴されるシェアの時代のカタチ、とか)また改めてじっくり考察してみたいなと思います。


◇◇◇

「旅とミスチル」について書いた他のnoteはこちら。よければご覧ください。


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