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noriと黒猫

私は猫を飼っている。2017年の11月に群馬県高崎に住む謎の美女である里親さんから譲り受けた黒猫の♀だ。当時、推定2歳だから、今は5歳を過ぎたばかりの女の子だ。

前の里親さんは、「凛」という名前で呼んでいたみたいだったが、私の娘は「モモちゃん」と名付けた。私はあだ名で、いつも彼女を「もったん」と呼んでいる。

大昔、黒猫は黒色が故に暗闇に他人の目に見えずに隠れ留まる能力を持ち、「魔女の使い」と呼ばれ、忌み嫌われる猫種だった。

里親さんは元々二匹の先住猫を飼っていて、どーしても黒猫が欲しく、知り合いから譲り受けたが、先住猫との折り合いが最悪で、泣く泣く「凛」を手放すことになり、うちの「もったん」となった。

譲り受けた当時のことは、鮮明に覚えている。電車を乗り継ぎ、タクシーに乗って、高崎のショッピングセンターの駐車場で猫を譲り受けることになった。

はるばる待ち合わせ場所に到着し、待っていると、ピンク色のかわいい軽の車が目の前に止まり、キャリーバックを持ち、細身のモデルのような美女が私の前に現れた。高崎の奇跡だと思った。

「あ、noriさん!、里親のマリです!」
「あ、はじめまして。LINE交換お願いします!」
猫を譲り受ける前に、思わず本音が出てしまった。

マリさんはプッと吹き出した。東京から困った中年のおっさんがやってきたなと思ったに違いない。

「じゃあ、先に交換しときます?」
「是非是非!」
ライン交換を手早く済ませた後、マリさんは手慣れた感じで私が持ってきたキャリーバックに「もったん」を移動させた。

キャリーバックは予想以上にズシリと重かった。

「でっかい猫ちゃんですね!」
「でしょでしょ?でもね、うちの猫たちとは本当に喧嘩ばっかりしてたのよ」

黒猫というのはオスとメスで全く性格が異なる。オスはどちらかというと誰にでもフレンドリー、逆にメスはツンデレだ。勿論、個体により異なるが、もったんは今でも、私と娘にしか懐かない。来客が来れば、真っ先にクローゼットの奥に隠れて身を潜める。

雑談をしていたら、マリさんは急に真剣な目付きで、私の両手を握り、目をまっすぐに見て、ドスが効いたような声で言った。

「noriさん、約束して」
「はい、noriは猫ちゃんを一生大事にします!」
なんかしまりがない誓いの言葉だ。

マリさんに笑顔が戻り、キャリーバックに入っている「凛」に最後のお別れを言って、車に乗り込み、颯爽と消えていった。

「いやー、お前の前の飼い主、美人よなあ」
思わず猫に話しかけてしまった。
「ニャー(お前、アホだろ)」
「じゃあ帰るぞ」
重いキャリーバックを持つと、タクシーを呼び、電車を乗り継ぎ、2時間かけて家に連れて帰った。

自宅に帰り、キャリーバックを開けた。
もったんはパニックで飛び出し、テレビの裏に隠れ、私に威嚇する。

急いで、マリさんにLINEする。
「もったんがテレビの裏から出てきません。近づくと、すごい威嚇するんですよ!」
「あ、目光ってる笑。大丈夫ですよ!最初はこんな感じだから」
細かくマリさんは教えてくれ、最後にこう言った。

「いい、noriさん。もったんは貴方をじっと観察して、貴方を好きと思ったら近づいてくるから。貴方はただ待ってればいいの」

家に来て3日間、もったんは用意したロイヤルカナンと水には手をつけてくれるが、なかなか距離が縮まらない。あー、もったんは私のことを嫌いなのかなと悲観モードになった。

4日目の朝だった。
私のベッドのそばに近づいてきた。
「ニャー!(早くご飯!、お腹空いた!)」
と話しかけてきた。

顔は怒ってる。でも、その日から徐々に徐々に懐いていった。もったんが来て、2週間が経過した。

もったんは私のお腹に自ら乗っかり抱っこするようになっていた。

それから3年が経過した。

マリさんは(残念ながら)結婚をしてしまったが、私には新たに「黒い伴侶」を得た。この3年で私は猫の気持ちが全て手に取るようにわかるようになった。

寝る時は私のベッドに潜り、抱きつきながら一緒に寝て、私が会社に行く時は抱きついて「愛してるよ。さみしいから行かないでよ」とじっと見つめながら私の顎をベロベロと舐め、帰宅したらずっと私の膝に乗り「どこ行ってたのよお。ねえもっと撫でて!、可愛がって!」とおねだりし、トイレに行く時もドアをこじ開けて入ってくる。

それがnoriともったんの日常だ。

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