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eternal flame… 永遠の愛

「今はカイロにお住まいなんですか?
 それともフルガダですか?」

どちらにも住まいはありますが、どちらかというとフルガダが主かな…
カイロは都会だし便利ですが、私には合ってないのかも…フフッ

悦子は記者の質問に答えながら、隣のアミールの顔を眺めながら
少しおどけて見せた

「what did you say?」何て言ったの
アミールはおどける悦子に優しく問いかけた

「あなたが好き💗って言ったの」

たまにはこういう感じでやり取りをスルーすることにも慣れてきた


彼と知り合って長い年月が経っていたし、当時の私はとてもとても
毎日が必死で…何かにもがいていた

当時の彼も何かにもがいていたのだと思うと
同じ沈没船に乗り込んだ同志だったように思える

ひとつだけ言えることは、私たちは救命胴衣をつけているのにも関わらず
深い深い海底を自ら目指していたということ

決して沈むことはないはずだけど、幸せになるためには何かしらの罰を受けなければ幸せにはなれない縛りのようなものがあったのだろう


「あの…あ、あの悦子さん?」
記者の問いかけに一瞬ビクッとした私をアミールがクスッと笑った

記者は続けて
「あの…お住まいを拝見させて頂くことは可能ですか?私、めちゃめちゃ
興味あるんです!絶対に読者もみたいだろうなぁ」

彼女は雑誌の記者だが、独立したいという夢をもっている
彼女の名前は恭子
バリバリ働く日本での生活スタイルに少し疲れを感じはじめていた時、
私のブログを見て衝撃を受けたらしい

彼女とは何度かメールのやり取りをしたが、まさか!エジプトまで来るとは
思ってもみなかった
素直に嬉しかったし、アミールのウェルカムな姿勢が嬉しかった

彼女からは何となく昔の自分と重なるものを感じる
思い立ったらすぐに行動!いつも前のめりなアグレッシブさ、だけど
どことなく枯渇という寂しさを感じるのだ


「sounds like a plan!」いいんじゃない?
私よりも先にアミールが応えた

会話がわかることに驚いた私に彼は音声翻訳アプリを笑って見せた

彼はいつも私を驚かせる、そして喜ばせる…
your hapiness is my hapiness
これは今までもこれからも変ることない私たちの合言葉

しかし、ここまでたどり着くまでにかなりの時間も経験も学びもあった
別れる覚悟も幾度となくしてきた
その度に波に引き戻されるような不思議な出来事が起こる
悦子はどうせ引き戻されるならば流れに任せようと肩の力を抜いた途端訪れた奇跡のような現実を懐かしんでいた


「彼も”いいんじゃない?”って言ってますし、私…ちょうど明日フルガダの家に行くのでご一緒にいかがですか?カイロ空港で待ち合わせしましょうよ」

アミールが驚いた眼差しを悦子に送っていた

”アシタ?フルガダ ニ イクノ? キイテナイ”

音声翻訳の機械的な音声が何とも滑稽だった

「そうよ、あれ?言ってなかった…じゃ、今言ったってことで」
悦子は日頃の彼の口癖を真似してみた

エジプシャンあるあるかもしれないが、自分を正当化するというより自分をいつも大切にそしてポジティブに守る…
悦子はその姿勢がいつも羨ましく、自分に欠けている部分だと思っていた


アミールとのやり取りをよそに記者の恭子は自分のスケジュールの確認をしていた

「行きます!是非、伺わせてください!明後日、帰国の予定でしたがキャンセルしました!」

彼女のこういうフットワークの軽さが愛おしく思えた

「ね、だったら…うちに泊まっていってよ!フルガダの街を案内したいし、たくさんの人にエジプトの素晴らしさをもっとよく知ってほしいの。
恭子さんの記事を読んでくれた人たちが興味を持ってくれたら嬉しいじゃない?」

悦子は何とも言えない高揚感を味わっていた
その顔を嬉しそうに見つめるアミール
2人の間には昔からある言葉を超えた疎通があった

「では、お言葉に甘えて♡悦子さん、よろしくお願いします」

悦子はこの時、恭子に全てを打ち明けようと覚悟に似た感覚を抱いていた

「私の方で飛行機は抑えておくので、時間が決まり次第LINEしますね、
今からジムでレッスンが入ってるから、この辺で失礼します。今日は
楽しかったわ♪ありがとう  明日、楽しみにお待ちしてます」

そう言って悦子は恭子に握手とハグをした


ジムに向かう途中の車の中、アミールは悦子に訊いた
「what do you want to do next?」

「次?どういしたい?uhmm…wanna eat something」
悦子は彼の問いに素直に答えたが、彼の問いの意味をすぐに察したが
上手く言葉にできなかった

アミールは悦子との次のステップを考えていた
彼にはまだ『離婚』というハードルが残されていた
彼の中ではex wife(元奥さん)だが、ここはエジプト…日本のようには事が簡単に進まない現状に彼自身疲弊していた

悦子は昨年離婚が成立し、ようやく自分の脚で歩きはじめたが
アミールはまだ離婚をしていない自分を後ろめたく思う気持ちがあった

悦子を心から愛し、幸せな家庭なを築きたい…
しかし、彼の前に立ちはだかるエジプトの法律の壁
それは日本人の想像をはるかに超える分厚さがあったのだ

悦子は愛してるが故、応援なんかじゃすまされない簡単な言葉かけを
控えていた
遠距離だった頃とは違う、近いけれど見えてしまうもの
その切なさを必死で表に出さないことが彼女の愛し方だった


「悦子さ~ん!おはようございます!今日からしばらくお世話になります」

早朝なのにカイロの気温は30度越え…そんな中、恭子は太陽よりも明るい笑顔で悦子を待っていた

空港まで送ってくれたアミールにキスをして、着いたら連絡するね♪とだけ伝えた


次回へと続く…


























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