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【旅行記】日中交流 #ニューヨーク

これまで一人旅で訪れた国での出来事をあれこれ綴るエッセイ。ちなみに英語はまともに話せません。ニューヨーク編④です。


 ニューヨークの大晦日を描いた映画『ニューイヤーズ・イブ』。その映画の中にニューヨーク全域のミニチュアが出てくる。そのミニチュアはクイーンズミュージアムという、クイーンズにある美術館に展示されている。美術館は年末でもやっているとの情報をホームページで確認し、ミニチュアを見るためにクイーンズミュージアムへ向かった。

 クイーンズミュージアムはフラッシング・メドウズ・コロナ・パークの敷地内にある。全米オープンテニスの会場もある公園で、セントラルパークよりも広い。
 十時過ぎには公園に到着。公園内には誰もいない。曇り空と芝生に冬枯れの樹木。芝生の陰には時折リスが見え隠れする。静かで寂しげな中をしばらく歩いた。すると巨大な地球のモニュメント、ユニスフィアを発見した。ユニスフィアの向かい側にクイーンズミュージアムがあり、早速中へ入ろうと思ったものの静まり返っている。扉をよく見ると開館が〈正午〉と書かれていた。開館時間まではホームページで確認しなかったことを悔やむ。
 ただ開館をじっと待っていても仕方がないので、広い公園内を散策することにした。すると公園内には美しい光景が広がっていた。曇り空の隙間から光が差し、湖を照らしている。白鳥が飛び交い、なんとも幻想的である。公園に早めに着いたからこそ出会えた景色。ただただ目の前に広がる光景をベンチに座りながら眺めていた。
 頭の中でクリストファー・クロスの『Arthur's Theme』を流してみる。うむ、ピッタリである。たまにはただぼんやりと過ごす時間も大切だ。思いがけずに出会った光景に、ニューヨークの魅力はマンハッタンやブルックリンだけではないことを認識した。晴れている日にはまた違った景色が広がっているのだろうか。
 近くで写真を撮っている人が見えた。なかなか長いレンズを抱えている。そのレンズから察するに、驚くような瞬間を捕えた写真を撮っているに違いない。何度か躊躇いながらも勇気を振り絞って声を掛けてみた。
 こんにちは。フードを被っていたため後ろ姿からは分からなかったのだが、一瞬まさかの〈日本人(ジャパニーズ)?〉かと、思わずそう呟いたが、〈中国人(チャイニーズ)〉の男性であった。ニューヨークにて日中交流を果たす。ニューヨークに住んでいると言っていたが、もう長く住んでいるのだろうか。男性は六十歳は超えていそうである。
「私のカメラで?それともあなたのカメラで?」
 何のことかと思ったが、写真を見せてもらおうと声を掛けたものの、〈ピクチャー=テイク〉と頭の中にインプットされていたため、間違えて写真を撮ってもらいたいと頼んでいたようだった(せっかくなので撮ってもらえば良かったと今にして思う)。
「待っていても今日は鳥があまり動かないんだよ」
 なんとか訂正して見せてもらった写真は、長いレンズの割には案外普通であった(おっと、失礼)。そう、男性の言う通り鳥がなかなか飛び立たないのがいけないのだ。うん。きっとそうだ。まあ鳥だってたまにはのんびりしたいよね。
 別れ際に手を振ってみると、ちゃんと手を振り返してくれたことが妙に嬉しかった。さようなら。

 その後、短時間で世界旅行を幾度となく果たした。案外地球はちっぽけだ。正午のオープンまで地球のモニュメント、ユニスフィアの周りをひたすら歩いた。
 そしてようやくオープンしたクイーンズミュージアムは、前日に行ったマンハッタンのメトロポリタンミュージアムとは違い、人も少なくゆったりと鑑賞ができた。チケット売り場の女性も穏やかな表情をしていた。天井が高く、広々とした空間に個性的な展示が溢れていた。巨大な絵から、細々としたガラクタ(実際は貴重なものなのかもしれないが)のようなものまでざっと見ただけでも純粋に楽しめる、そしてちょっと変わった展示が多いような印象であった。
 その中でもニューヨーク全域のミニチュアは圧倒的。子供達二、三十人が駆け回るには充分過ぎる広さのスペースに、細かく建物一つ一つが丁寧に再現されていた。空港にはしっかりと飛行機が往来している。自分が泊まっているホテルを探してみたり、自由の女神やセントラルパーク、ブルックリンブリッジなど観光名所を探してみたりとなかなか楽しめた。
 わざわざ並んでまで登る必要はない。訪れる予定であったエンパイアステートビルには行かないことにした。このミニチュアを見たことで、すっかり上空からニューヨーク全体を見渡した気分になったが故に。

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