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【旅行記】そんなこんなで #ダブリン

 これまで一人旅で訪れた国での出来事をあれこれ綴るエッセイ。ちなみに英語はまともに話せません。ダブリン編のスタートです。


 ホットチョコレートを飲んでいる。市民の憩いの場、セント・スティーブンス・グリーンにて。ほのかな苦味とほどよい甘さ、そして温かさにホッとする。春のダブリンはまだ寒い。
 それにしても日本人を見掛けない。
「なぜアイルランドに行くのか?」
 周囲から何度も言われたことを思い出す。

 朝、電車が遅れていた。通勤のために地元の駅に着くと、ホームには物凄い人だかり。電車に無理矢理乗り込もうとする人たちの群れに、虚しさと疲れを感じた。
 日本を抜け出したい。しばらく海外で暮らしたい。そんな無謀なことを突然思い、スマートフォンで向かう先を調べ始めた。初めてのニューヨーク一人旅で感じた人の温かみが忘れられず、海外で暮らすならば、気さくな人たちがたくさんいる場所が良いと考えた。 そして決まったのがダブリン。アイルランドには親切な人が多いらしい。たったそれだけが決め手となりダブリンへ。暮らすには良い場所なのか試しに見に行ってみようではないか。
 周囲からなぜアイルランドへ行くのかと聞かれても、 そこで暮らしたいから行くなどとはなかなか言い出せず。しかしこれと言って他に理由も見当たらない。アイルランドのビール、ギネスが飲みたいからと適当な返答をしていた。それでもガイドブックをペラペラとめくってみると、石畳の通り、小さな美術館、近郊の港町や豊かな自然など、案外惹かれる場所が多い。勢いで決めてしまったダブリン行きだったが楽しみで仕方なかった。

 ダブリンへはドバイを経由して向かった。成田空港を二十二時に出発し、経由地のドバイに着くのは真夜中。そしてダブリンに着くのはお昼。なかなか時間のかかるフライトで、ドバイへは十一時間、トランジットが三時間、更にダブリンへは八時間と、合計二十時間超えのハードスケジュールである。機内食をひたすら食べ続けていた印象だった。
 ドバイからダブリンへ向かう飛行機で、隣に座る男性が声を掛けてきた。アイルランドの方で、非常に陽気な雰囲気である。緑色のTシャツを着ていた(やはり、アイルランドのシンボルカラーだからなのだろうか?)。ニュージーランドで友人の結婚式があったらしく、その帰りとのこと。
 日本から来たと伝えると驚いていた。彼は日本へ来たことがあるそうだ。
 シブヤー。シンジュクー。メニーメニーピーポー。
 一応、意思疎通は図れていたようである。
〈I want to drink Guinness!〉
 そう伝えてみると笑ってくれた。日本に行った時にもギネスを飲んだとのこと。しかし日本で飲むギネスは、アイルランドで飲むのとは違うらしい。本場はもっとクリーミーとのことだ。 輸送する間に鮮度が落ちてしまうのだろうか。本場のギネス、楽しみにしていよう。アイリッシュウイスキーもおすすめだそうである。これまた楽しみにしていよう。
 このギネスネタ(と言えるのか判らないが)を、空港からダブリン市内へ向かうバスの中で出会った、ポーランド人の男性にも言ってみたら笑ってくれた。もしアイルランドへ行くことがあれば、このギネスネタは使ってみるべきだと思われる。しっかりと実証済み!ちなみに彼も日本に来たことがあると言っていた。日本に興味を持ってくれるとは、なんとも嬉しい限りである。僕も彼の出身地、ワルシャワに今度行ってみようと思う。
 お隣さんに長いフライトを楽しませてもらい、気付けばあっという間にダブリンに到着。そしてここで彼とはお別れ。
「ダブリンへようこそ!」
 到着を歓迎してくれた。

 そんなこんなでギネスを飲んでいる。人々が行き交う通り、テンプル・バーのパブにて。ギネス独特の苦みはそこまで感じられず、さっぱりとした味わい。日本で飲むものとは明らかに鮮度が違った。
 ギネスと一緒にフィッシュアンドチップスを食べる。大ぶりの身が二つに大量のポテトが盛られている。サクサクの衣に魚はふわっとしていて、その美味しさに食が進む。
 ふと店の外を眺めてみる。春のダブリンはなかなか日が沈まない。二十時半を過ぎても外は明るく、いつになったら暗くなるのか疑問に思う。ヨーロッパの春から夏は日照時間が長いことなど知らずにダブリンへ来たため、初めて体験するいつまでも日が沈まない世界にただただ驚くばかりであった。

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