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【旅行記】ジャパニーズマン到着 #ニューヨーク

 これまで一人旅で訪れた国での出来事をあれこれ綴るエッセイ。ちなみに英語はまともに話せません。ニューヨーク編のスタートです。


 突然の思い付き。初めての一人旅。年末年始、冬のニューヨーク。
 一人旅に行くならばニューヨークしかないだろうと決めていた。これといった理由はなかったけれど、惹かれる何かがあり、いつの日か訪れたい憧れの地であった。写真や映像で見るような、煌びやかなタイムズスクエアの印象が頭に残っていたからだろうか。そこへ一人で行くことに、ある種のかっこよさを単に感じていただけかもしれない。実際は英語をまともに話せないため、あたふたするわ、まごまごするわの連続。頭の中に描いていた理想像とはかけ離れた、いや、想定通りの一人旅であった(何度海外へ一人で行っても、そこだけはいまだに変わらない…)。
 楽しみが気持ちの大半を占めていたけれど、片隅にはやはり不安。そんな僕の気持ちを和らげてくれたのは、気さくに接してくれる人たちだった。初めての海外一人旅の地に、ニューヨークを選択したのは大正解だった。この旅がなかったら、これ以降海外へ一人で行くことはなかったのかもしれない。

 成田空港を発ち十三時間の長いフライトの末に、ジョン・F・ケネディ国際空港に無事到着。無愛想な入国審査に怯えながらもなんとか切り抜けて入国。滞在予定のホテルがあるユニオンスクエアへ向かった。
 空港のターミナルと地下鉄の駅を繋ぐエア・トレイン。高架を走る列車のため周辺を見渡すことができるのだが、眺めはこれといった特徴はない。果たしてここはニューヨークなのだろうか?という印象。日本と変わりない。確かに車内には日本人が少ないのだが、まだ自分が海外にいるという実感が湧かなかった。
 そしてスーツケースを抱えて地下鉄に乗り込んだ。最初は僕以外にもスーツケースを抱え空港からマンハッタンへ向かう人たちがいたため、心細くはなかった。やがて同志(勝手に仲間意識が芽生えている)は減っていき、スーツケースを持っているのは遂に僕一人。誰がどう見ても明らかに観光客。初めてのニューヨークの地下鉄に治安はどうなのか若干不安を抱きつつも、案外溶け込んでいた(?)ようで、何事もなくたどり着いたユニオンスクエア。地下鉄の階段を登って外に出ると、周辺は広場になっていた。木々はすっかり葉を落としていたけれど、緑が生い茂る季節にはニューヨーカーの癒しの場となりそうである。それほど騒がしい印象はなく、滞在するには良さそう。
 むふふふふ。やっとこニューヨークの地を踏んだことを実感し、自分でも気持ち悪い人だと解っていてもつい一人でニヤニヤしてしまう。頭の中にはスティングの『Englishman In New York』が流れている。いやいや、『Japaneseman In New York』じゃない?小雨の降る中、そんなことを考えながら滞在予定のホテルに向かった。
 ニューヨークの信号機、塗装は黄色。歩行者用の信号機には手のマークが表示されていて、一見手を上げているようである。日本だと子供の頃、手を上げて横断歩道を渡るようにと教わるため、完全にそのイメージが頭に浮かんでくる。実際に横断歩道を渡っている人たちもいる。ということはこの手のマークが日本でいう〈青〉かと思い、渡ろうとするも明らかに車が横切っているのでアウト。〈待て!〉って意味の手のマークらしい。人が歩いているマークになれば渡って良し。しかし渡れるのも一瞬で、もたもたしているとすぐに信号は変わってしまう。体の小さい日本人の歩幅用に時間設定はされていないようだった。
 また信号無視は当たり前。あくまでも信号は目安。どう見たって車が来ているのに、ギリギリでも間に合うようであれば渡るといった様子。軽く手を上げながら車を止めてひょいと小走りで渡ってしまう強者まで見かけた。
〈日本人男性、ニューヨークで車に轢かれて死亡!〉
 初めての海外一人旅で記事になってもシャレにならないので、きっちりと信号を守る。日本人として。しかし人間は環境に順応する生き物である。数日後に気分はすっかりニューヨーカー。滞在中は信号無視が当たり前となってしまうのであった。

 ホテルの前で一呼吸。気持ちを落ち着かせて扉を開けた。果たしてチェックインできるだろうか。そもそも予約できているだろうか。内心ドキドキするも、まずは、こんにちは。迎えてくれたフロントの男性はとても気さくな人であった。
「ユニオンスクエアは初めて?」
「この辺りは良いところだから楽しんでいってね」
 明らかに不安で顔が引きつっているであろう僕にあれこれと話し掛けてくる。不安な気持ちは和らいでいった。正にフレンドリーといった言葉がぴったり。それでいて丁寧で適切な距離感。これ位がちょうど良い。生真面目に対応されてたら、非常に緊張してしまったであろう。それに応じてジェントルマンのように振る舞うなど、明らかに不可能であった。
 ニューヨークのホテルは料金が高いため、トイレと風呂が共用の比較的安めのホテルを選択してしまったが、どうやらここにして正解だったようである。少し緊張しながらも自分なりにコミュニケーションを取ることが楽しい。僅かなやりとりの中にも人の温かみを感じ、この先は素敵な旅になる気がした。

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