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殿様経営の日本+皇帝経営の韓国=最強企業のつくり方 (金顕哲・野中郁次郎)

 近年、サムソンを代表格として「韓国企業」の躍進が大きな脚光を浴びています。同じ業界の日本企業の状況と比較すると、残念ながら、その差は歴然です。

 本書は、韓国企業の成功要因を様々な観点から検証し、具体的な実例と平易な文章で分かりやすく解説したものです。

 まずは、広く指摘されている点ですが、韓国が意図的にコントロールしている同業種内の「企業絞込み」についてです。

(p24より引用) 韓国版の鉄のトライアングルの一角を占めるのは、政治家と官僚が司る政界だ。もう一角が、メインバンクに代表される銀行システムであり、残りが産業を担う財閥である。・・・
 政府と官僚は終点産業だけでなく、産業別に企業の数まで決めていく。・・・国際競争力のある企業の数は絞り込まれている。限られたリソースを有効に活用するためだ。

 有名な例をあげると、自動車なら現代自動車・起亜自動車、電子産業ならサムスンとLG、鉄鋼業ならポスコといったところですね。
 これらの寡占企業は、国内での過度な競争を回避することにより、持てるパワーの大半を国際市場に注力しているのです。

 二つ目の韓国企業の特徴は、「会社の位置づけ」すなわち「会社は誰のものか」の答えにあります。

(p132より引用) 企業はだれのものかという企業の在り方をめぐる議論は、資本主義のスタイルの違いと重なる部分がある。日本企業の場合、会社は従業員のため、顧客のためにあるもので、従業員資本主義、顧客資本主義をとっている。
 アメリカは、ご存じのとおり、株主資本主義をとっている。・・・
 韓国オーナー資本主義である。会社はだれが何と言おうと、オーナーのものだ。全権を持つオーナーの指示には絶対服従である。

 この「オーナー」による強力なリーダシップが、デジタル化時代のスピード経営に大きなアドバンテージをもたらしているとの指摘です。
 著者はバルセロナオリンピックのマラソン競技における韓国の黄永祚選手と日本の森下広一選手とのデットヒートをたとえにして、こう解説しています。

(p167より引用) 親しみのある日本人と同じ戦略で追随し、機会を伺って、決定的瞬間に運をつかみとる-それは、アナログ時代の長い付き合いの中で力を蓄え、モンジュイックの丘ですっと前に出るように、デジタル時代の流れに乗ってトップに踊りだす韓国企業の姿と重なる。

 このモンジュイックの丘を越えるときには、オーナーの決断力が大きくものを言ったのです。具体的には、現代自動車の大型エンジン開発やサムスン電子の半導体加工技術の選択・LCDパネルへの参入時の意思決定でした。

(p171より引用) 現代やサムスンの下した意思決定は、膨大な投資を伴うものであり、企業単体では到底賄いきれるものではない。日本企業の場合、実施の決定に踏み切れないケースも多い。

 ここで効くのが「財閥」の力であり、そのトップに君臨するオーナーの決断力です。そして、オーナーは、資金に限らず人材や販売力といった財閥グループ各社のリソースをフル動員するのです。さらに、この決断力は、「不況時ならではの投資」という戦略の実現を可能にします。

(p172より引用) これは、日韓の大きな差となっている。日本では不況時には大胆な投資ができない。しかし、韓国企業は不況こそチャンスだと考えて、思い切った投資をする。企業の内部でポートフォリオを組んでシナジー効果を発揮し、グループ全体でもシナジー効果を発揮している。それが、韓国企業の大きな強みとなっているのである。

 とはいえ、完全な「オーナー独裁」ではありません。

(p160より引用) 韓国企業の経営は、トライアングルで整理できる。頂点はオーナーであり、もう一角は秘書室ないしは戦略企画本部、そして、残りの一角が各社の専門経営者である。この三者が経営チームを構成し、三極経営を行っていく。

 オーナーを中心として、その戦略参謀としてのスタッフ組織と実行部隊としての各グループ会社の専門経営者が支えるというフォーメーションが確立されています。

 著者は、こういった組織と命令系統が成立するベースには、「格差」を前提にした韓国社会の構造と、「徴兵制」による共通経験があることにも言及しています。
 この点、すなわち「格差容認」や「徴兵制」が韓国躍進のクリティカルな構成要素だとすると、そのまま真似するわけにはいかないですね。

(注:本記事は、2010年に初投稿したものの再録です。10年以上を経て韓国企業の隆盛もピークを越した感がありますが、日本はといえば、ずっと低空飛行を続けたままのようです。)



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