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リーダーを目指す人の心得 (コリン・パウエル)

(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)

コリン・ルール

 著者のコリン・パウエル氏は、政治家としてはジョージ・W・ブッシュ政権時の国務長官、軍人としては陸軍大将・統合参謀本部議長を歴任したスーパーエリートです。

 本書は、パウエル氏によるリーダー論、アメリカでもベストセラーになったとのことです。しかしながら、「リーダー論」というレッテルは本書の内容を正しく捉えたものではありません。

 パウエル氏自らの体験から生まれた箴言はもちろん氏自身の信条を表したものであり、リーダーとしての資質を高めるものではあります。と同時に、パウエル氏が大切にしている言葉やエピソードからは、その人柄・価値観が伝わってきます。
 たとえば、パウエル氏の“13カ条のルール”として知られている中の「9.功績は分けあう」の章で紹介されている心理療法士の言葉です。

(p39より引用) 功績は皆で分けあい、非難はひとりで背負う。そして、おかしくなった理由を探し、そっと直す。「自分の行為の原因を自分以外に求めたとき、それは理由でなく言い訳になる」・・・どのような人も心に刻むべきものだと思うが、特にリーダーにとって大事な言葉だろう。

 パウエル氏の経歴を語るとき、しばしば「黒人初の・・・」という接頭句が付くことがあります。マイノリティーとしての痛みを知っているパウエル氏は「思いやり」の人でもありました。

(p74より引用) 親切な人といくじなしや軟弱者とは違う。親切とは弱さを示すものではなく、自信を示すものだ。親切で思いやりがあると皆に思われていれば、厳しい決断をしても受けいれてもらいやすい。なぜそういうことをしているのか、理解してくれるからだ。・・・
 昔から言われているように、「世界にとってあなたはひとりの人にすぎないかもしれないが、ひとりの人にとってあなたは世界になりうる」のだ。

 とはいえ、やはり軍人としても、また行政官としても頂点を極めた人物だけに、「判断プロセス」における基本的なプロトコルは厳格に適用しました。
 そのプロセスの中でも特に重要なのが「情報」の扱いです。

(p153より引用) 情報収集プロセスに対し私と担当官で同じ見方になるように、また、担当官の説明責任を軽減してあげるため、私は、次に示す4カ条のルールを設定した。・・・
・わかっていることを言え。
・わかっていないことを言え。
・その上で、どう考えるかを言え。
・この3つを常に区別しろ。

 この4カ条の中で最も実践するのが難しいのが、「わかっていないことを言え」です。そもそも「わかっていない」ことは何なのかを突き詰めるのは極めて困難ですし、情報を求めている上司に対して「わかっていない」ことを言うこと自体に大きなプレッシャーがかかるからです。

 したがって、この「わかっていないことを言え」を実践させるためには、上司の側から受容の姿勢を示すことが重要になります。
 パウエル氏の受容の姿勢を示す証左のひとつは、パウエル氏が新しい部下に配るメモの第一項目でも明らかです。

(p178より引用) なにをなすべきかわからないとき、私への確認を遠慮するな

 指示内容がわからなければとことん聞け、そこまでしてもわからないのならば、自分の方か混乱しているのだとパウエル氏は言っています。

 最後の責任を自分に帰納させるこの謙虚な態度は、素晴らしいと思います。私も口では同じようなことを言いはしますが、本当に完遂できるか、またできているかと自問すると、情けないことに全く自信がありません。是非とも学びたい姿勢です。

失敗からの学び

 本書で紹介されているパウエル氏のアドバイスにリアリティがあり実践的である理由は、すべてパウエル氏の体験の中で醸成されたものだからです。

 その中でも殊更説得力があるのは、パウエル氏の「失敗」から得た教訓を語っているくだりです。
 たとえば、2003年、サダム・フセイン政権を崩壊させた「イラク進攻」におけるアメリカの判断を顧みてのコメント。

(p203より引用) この勝利はすばらしい成功であるとともに大きな問題の解決でもあると皆が思っていた・・・勝利後になにをしなければならないのか、誰もほとんど考えていなかったのだ。・・・
 我々が引きおこす変化がイラク国民にどのような影響を与えるのか、また、イラクの社会構造にどのような影響を与えるのか・・・イラク国民は、・・・自由を手に入れても不平は収まらず、逆に反目や対立が激化。・・・何年ものあいだ、希望的観測で欠陥戦略を進めてしまったのだ。

 まさにその時重要な立場にいたパウエル氏の語る教訓はとても重いものがあります。

(p203より引用) まず、解決策を検討する場合、何段階か先の副次効果までよく検討しなければならない。また、これで解決できると思う対策に到達したときには、それが本当に解決策なのか、それとも、将来に禍根を残す希望的観測なのか、自問自答しなければならない。

 重要な決定であればあるだけ、その直接的効果の大きさに注意が集中してしまい、その他のことが瑣末な事象に見えてしまうことは確かにあります。また、「手段の目的化」の陥穽に陥り易くもなるのです。改めて心しなくてはなりません。

 さて、本書を読んでの感想ですが、一言で言えば、開陳されているパウエル氏のアドバイスは私にとって素直に腹に落ちるものばかりでした。

 その中でも特になるほどと感じたものを、最後に書き留めておきます。
 「『第1報』に注意せよ」の章にあるパウエル氏の「第1報対応のチェックリスト」です。

(p166より引用)
・常識的に変だと感じないか? 深呼吸をしたり目をこすったりしてみよう。
・進行中のほかのことと矛盾はないか? その出来事に特別な状況や前後関係はないか?
・チェックにどれだけの時間が使えるか?
・どうすれば確認できるか? スタッフにやらせろ! 電話をかけろ!
・第1報が正しく、確認で対応を遅らせた場合のリスクやコスト、失われるチャンスは?
・第1報がまちがっており、あわてて対応してしまった場合のリスクやコスト、失われるチャンスは?
・なにがかかっているのか?
・時間切れだ! 動きはじめろ! 探しつづけろ!

 最初の、「違和感」を感じる直観は、数多くの経験を積むことによってでしか獲得できないのでしょう。

 そして、もうひとつ感じたこと、それは、パウエル氏の“真っ当な姿勢”でした。
 もちろん、自分自身の生き方に自信と誇りを持っており、それは、本書の語り口に明瞭に表れているのですが、それ以上に、氏の思いやりに溢れ包容力に富む言葉には大いに感じ入るところがあります。

(p291より引用) 子どもたちがなにを見ているのかわからないが、・・・彼らは常になにかを見ており、見たものを常に評価している。彼らに豊富な経験をさせてあげれば、なにかいいものをつかんでくれるはずだ。自分たちの人生やほかの人の人生をよくするなにかをつかんでくれるはずだ。

 最終の「第六章 人生をふり返って」の中の「若者は見ている」で紹介されているエピソードは特筆に価しますね。



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