ホテル戦争 ‐「外資VS老舗」業界再編の勢力地図 (桐山 秀樹)
日本のホテル業界は、数多くの外資系高級ホテルチェーンの参入で熾烈な競争状況にあります。
本書は、その攻防の様を、著者自身の地道な取材をベースした事実をもって明らかにしていきます。
ここでは、競争そのものよりも、本書に登場するホテルのマーケティングや顧客サービスの面で、私の気にとまったものをご紹介します。
まずは、超有名な「リッツ・カールトンのゴールド・スタンダード」です。
(p50より引用) 既によく知られているように、ザ・リッツ・カールトン・ホテルに勤めるスタッフは、「クレド」(信条)と書かれた小さなカードを常に携帯し、その理念を心に刻んで実戦するよう教育されている。・・・
ゴールド・スタンダードで目を引くのは、クレドに書かれている言葉「リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの、それは、感覚を満たすここちよさ、満ち足りた幸福感、そしてお客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心です」という一節である。
そして、サービスを実際の「形」にする「2,000ドル」です。
(p52より引用) クレームが発生した場合、リッツ・カールトンでは、ウェイターやハウス・キーパーに至るまで、ゲストに接するスタッフ全員に最高2000ドルまでの「決済権」を与えている。
その結果、発生したクレームに対して迅速かつ柔軟に処理すると共に、現場スタッフに上司の指示に頼らず、問題を自主的に判断する能力を持たせ、サービスの向上を図ることが出来る。
同じように、お客様サービスで定評のある「フォーシーズンズホテルズの黄金律」です。
(p143より引用) 採用において重要なのはその人間の態度、性格で、・・・
採用後は、「自分が対応されたいように、人に対応せよ」(Treat others as you want to be treated)を黄金律に、スタンダード(行動基準)以上のことは、自身で考えよという姿勢を取る。
また、マーケティングの観点からのホテル展開に関しては、トリプル・ブランドを推し進める「ハイアット・インターナショナル社の知恵」が紹介されています。
(p109より引用) ハイアット・インターナショナル社はよく知られているように、同一のホテルチェーンの中に、「グランド・ハイアット」「パーク・ハイアット」「ハイアット・リージェンシー」という3つの異なるブランドを持つ。3ホテルブランドをあえて差別化することでそのいずれかを進出する都市や地区の特性に分けて選ぶという戦略である。・・・
1つのホテルの中にあれこれと要素を詰め込まず、3ブランドに大別して、顧客の趣向を的確に摑む。これがハイアットの持つ「知恵」といえるだろう。
最後に、最高のサービスを生みだす「人」について。
(p197より引用) 運営で最も重要なのは、顧客満足(CS)ではなく、従業員満足(ES)である。
もちろん顧客満足が最も重要であることに変りはないが、ゲストにサービスを提供する側が勤務する環境に満足し、生きがいを感じて仕事をしていなければ、同じサービスを行なっても、ゲストの心に響くものとそうでないものに分かれてしまう。
ここで再び、リッツ・カールトンの登場です。
(p198より引用) 自分が何を成し遂げたいかというクリアなビジョンを持ち続け、自分自身を他と比較するのではなく、去年までの自分自身と比較して、どこまで夢やビジョンを達成できるようになったかを確かめる。リコ氏の運営するザ・リッツ・カールトン大阪では、そうした意欲的な人材が、リーダーが示す優れたビジョンを共有し、他の誰も思いつかないようなサービスを思いつく。それをすぐに会社のスタンダードにしていく。
箱物は、おカネさえをかければそれなりのものを作ることはできます。
やはり、最後は「人」だということです。「人」が最大のKSFだということは、どの業界でもそうですが、特に、接客を伴うサービス業では格別の意味をもつようです。
(p199より引用) 我々が一定の評価を受けるようになった最大の原因は、ホテル業界にいるのではなく、サービス業界で働いているのだと考えたことです。サービス業と考えれば、大切なのはホテルの外観ではなく、インテリアでもなく、人間だということが分る。デザインでも施設でもない、人間が提供するサービスこそが我々の全てなのです。そうすればお客様は必ず戻ってきます。
さて、最後の最後に蛇足を。
本書では、ホテルに求められている雰囲気を表わすのに、「自宅にいるのと同じ感覚で寛げる」というフレーズがところどころに登場します。
本書に登場するようなホテルが「自宅と同じ」というのは、どう逆立ちしても私の感覚では理解できません・・・。
1ヶ月ほど前(当時、10数年前)、機会があって「パレスホテル」のコーナーツインルームをシングルユースで使ったのですが、もちろん自宅とは大違い。慣れないもので、妙にはしゃいで正直落ち着きませんでしたね・・・。(スイートでもないほんの少し豪華なだけの部屋なのに、情けない限りです)
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