古寺をゆく1 興福寺 (「古寺をゆく」編集部)
今年(注:初投稿時2009年)は、東京国立博物館で開催された「国宝 阿修羅展」が人気を博しました。
本書は、その阿修羅像が収蔵されている奈良の名刹興福寺のガイドブックです。
創建1300年にも及ぶ興福寺。その過去と現在のエッセンスが、コンパクトな体裁の中で要領よくまとめられています。美しい写真も豊富に収録されていて、パラパラとページに目を走らせるだけでも楽しくなる本です。
やはり、まずは「阿修羅像」が登場します。その紹介文の一節です。
確かに写真をみると、正面像の顔は、わずかに眉をひそめ悩みを帯びた表情に見えます。他方、側面の顔にはあどけない一途さが感じられます。
その他の諸像も流石にどれも見事です。これほど国宝クラスの名品を所蔵している施設は稀有でしょう。
特に「玄昉坐像」は、素人の私が写真で見ただけでも、その表情・姿勢・衣の微妙なひだ等素晴らしいと思う秀作です。
さて、興福寺は南都六宗のひとつ法相宗の大本山です。
本書では、法相宗の僧侶で唯識の研究者でもある興福寺の貫首多川俊映氏による法相宗の教義の概論も簡単に紹介されています。
その中で印象に残った多川貫首のことばを、ちょっと長いのですが書き記しておきます。
多川貫首は、仏教思想の深淵に至るまでもなく、西洋思想の基本潮流である物心二元論に対置するものとしての東洋思想を概説しています。
そのコンテクストの中で、自然と人間との関わりについての今流行のフレーズを取り上げ、その言葉の欺瞞性、すなわち、やわらかな言い回しながらも通底する思想の高慢さに疑念を投げかけています。