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これからの思考の教科書 論理、直感、統合-現場に必要な3つの考え方 (酒井 穣)

ロジカル・シンキング

 本書が取り上げた思考法は、「ロジカル・シンキング」「ラテラル・シンキング」「インテグレーティブ・シンキング」の3つ。
 それぞれについて一章を立てて、分かりやすく解説していきます。

 まずはロジカル・シンキング
 これについては、世の中それこそ山のような著作がありますが、著者は、「ロジカル・シンキング」を一言でこう表しています。

(p27より引用) ロジカル・シンキングとは「事実と提案(結果)の間に、疑えない因果関係を生み出す思考」と言えるでしょう。

 そして、その特色をこう捉えています。

(p4より引用) ロジカル・シンキングとは、極端に言えば、「同じ事実が与えられれば(ほとんど何も考えなくても)、同じ結論を導くことができるスキル」のことです。・・・
 ですから、ロジカル・シンキングに精通した人材が集まると、問題となるのは「いかなる事実があるのか」という情報のインプットのところであって、そこからどのようなアウトプット(結論)が出てくるかは、あまり問題とはなりません。

 インプットが同じで、それをスタートに思考を進めるとその過程が「ロジカル」であるならば到達する結論は同じになるというわけです。さらに、こういう「ロジカル・シンキング」タイプの人材どうしのコミュニケーションは「効率的」になります。結論に至る道筋を説明する必要がなく、「事実の交換」さえすればいいからです。
 これは極端な論ではありますが、「ロジカル・シンキング」の特徴をザックリと言い表していると思います。

 続いて、著者は、ロジカル・シンキングを学ぶ目的として二つ上げています。ひとつは「説得力を高める」こと、もうひとつは「問題解決力を高める」ことです。

 一点目の「説得力の強化」については、そのための方法として「ロジカル・シンキング」に加え、「クリティカル・シンキング」という思考法を紹介しています。これは、攻撃的なロジカル・シンキングに対抗したり、自らのロジックに甘さを見つけたりするために利用するものです。

(p29より引用) クリティカル・シンキングのエッセンスは、相手に提示している、または相手から提示されている提案をそのままに受け取らず、過度な単純化や感情的な推論を嫌いつつ、前提条件となっている事実の存在を疑う姿勢を持つことです。

 そして、説得力のあるロジックを構成するため、著者が薦めるちょっとしたヒント。「ABCDEF」の語呂合わせです。

(p35より引用) 説得力のあるストーリーには「ABCDEF」が必要とされます。Aは「analysis(分析)」、Bは「Because(原因)」、Cは「Comparison(比較)」、Dは「Definition(定義)」、Eは「Example(事例)」、Fは「fact(事実やデータ)」です。

 二点目の「問題解決力の強化」については、ロジカル・シンキングによる「問題を発見する力」と「問題を分割する力」が必要と説いています。
 後者については、例の「ロジック・ツリー」と「MECE」が登場しますが、前者の問題点の発見のための方法としては「エスノグラフィー(行動観察法)」が紹介されています。これは、特に最近注目されている方法です。

(p41より引用) エスノグラフィーとは、人間はときに自分の行動の意図すらわからないのだから、そうした人間の意見をアンケートなどで収集するよりもむしろ、純粋に人間の活動を観察しようという立場から生まれた考え方で、特に、社会学や文化人類学の世界で発達しました。

 さて、本書のトップ、この「ロジカル・シンキング」の章は、著者の主張が非常に模範的かつ「ロジカル」に整理されています。私としては、その説明振りの律儀さに、少々微笑ましい?印象を持ちました。

思考の止揚

 本書では、まず最初にお馴染みの「ロジカル・シンキング」の要諦を分かりやすく概説したあと、「ラテラル・シンキング」「インテグレーティブ・シンキング」の解説を続けます。

 ロジカル・シンキングが垂直的に掘り下げていく思考法であるのに対し、「ラテラル・シンキング」は「水平思考」ともいわれます。直線的な結論ではなく、斬新さや飛躍したアイディアを生むための思考法です。
 その代表的な発想法として著者が挙げているのは3つ。
 1.ひらめきを生む発想法「アブダクション」
 2.異質なものの共通点を探して結びつける「シネクティクス法」
 3.定型化した問題解決のパターンから新たなひらめきを生む「TRIZ(トゥーリーズ)」

 その中からひとつ、「アブダクション」というのは、以下のような推論形式をとります。

(p86より引用) 驚くべき事実Cが観察された。
しかし、もし説明仮説Hが真であれば、Cは当然の事柄であろう。
よって、説明仮説Hが真であると考えるべき理由がある。

 そして、この「説明仮説H」を検証すればいいのです。いわゆる「仮説検証型」の思考法ですね。

 さて、このように、発想力を高めるのがラテラル・シンキングですが、そのためには「創造力」が必要です。とはいえ、全く白地のうえでは「創造力」の発揮はできません。

(p131より引用) 創造力だけで勝負できる場所などどこにも存在しないのであって、地道に積み上げたスキル(基礎)の上に、そのスキルの文脈の範囲内においてのみ花咲くのが価値ある創造性だということです。

 直線的なロジカル・シンキングだけでは、矛盾や対立が常在している現実社会の問題解決は困難です。そこに統合思考「インテグレーティブ・シンキング」が必要とされる素地があるのです。

(p141より引用) インテグレーティブ・シンキングのエッセンスは、対立する2つのアイディアを同時に検討する力であり、2つのアイディアのうちの一方をすんなり選んだりはせず、2つの対立するアイディアが持つポイントを同時に受け入れるような、より優れた第3のアイディアを生み出すというものです。

 著者は、このクリエイティブ・シンキングの説明にあたって、もうひとつの思考スキームを提示しています。「サバイバル・シンキング」と名づけられたものですが、これは「目的達成のために、取り得るアクションを洗い出し、メリットとデメリットを評価する活動」のことです。

 著者によると、インテグレーティブ・シンキングとは、このサバイバル・シンキングを「発展的に否定する」ものだというのです。

(p173より引用) インテグレーティブ・シンキングとは、このサバイバル・シンキングの最終段階で、1つのアクションを選ぶのではなくて、洗い出された複数のアクションを「腹の底」に定着させて、それらの相反するアクションのよさを失わないままに「融合」するような新たな解を生み出そうとする知的ステップのことです。

 本書で紹介している3つの思考法ですが、これらを企業活動に当てはめると、
 ・経営ビジョンの策定には「インテグレーティブ・シンキング」
 ・経営ビジョン実現のための戦略の策定には「ロジカル・シンキング」
 ・さらにその戦略を実行する人材を育てる人材ビジョンの策定には、「ロジカル・シンキング」+「ラテラル・シンキング」
が活用されると著者は主張しています。

 これもロジカルな整理ですが、私などは単純なので、どんなことを考えるにあたっても、基本は懐の深い「インテグレーティブ・シンキング」だと考えてしまいます。



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