これからの思考の教科書 論理、直感、統合-現場に必要な3つの考え方 (酒井 穣)
ロジカル・シンキング
本書が取り上げた思考法は、「ロジカル・シンキング」「ラテラル・シンキング」「インテグレーティブ・シンキング」の3つ。
それぞれについて一章を立てて、分かりやすく解説していきます。
まずはロジカル・シンキング。
これについては、世の中それこそ山のような著作がありますが、著者は、「ロジカル・シンキング」を一言でこう表しています。
そして、その特色をこう捉えています。
インプットが同じで、それをスタートに思考を進めるとその過程が「ロジカル」であるならば到達する結論は同じになるというわけです。さらに、こういう「ロジカル・シンキング」タイプの人材どうしのコミュニケーションは「効率的」になります。結論に至る道筋を説明する必要がなく、「事実の交換」さえすればいいからです。
これは極端な論ではありますが、「ロジカル・シンキング」の特徴をザックリと言い表していると思います。
続いて、著者は、ロジカル・シンキングを学ぶ目的として二つ上げています。ひとつは「説得力を高める」こと、もうひとつは「問題解決力を高める」ことです。
一点目の「説得力の強化」については、そのための方法として「ロジカル・シンキング」に加え、「クリティカル・シンキング」という思考法を紹介しています。これは、攻撃的なロジカル・シンキングに対抗したり、自らのロジックに甘さを見つけたりするために利用するものです。
そして、説得力のあるロジックを構成するため、著者が薦めるちょっとしたヒント。「ABCDEF」の語呂合わせです。
二点目の「問題解決力の強化」については、ロジカル・シンキングによる「問題を発見する力」と「問題を分割する力」が必要と説いています。
後者については、例の「ロジック・ツリー」と「MECE」が登場しますが、前者の問題点の発見のための方法としては「エスノグラフィー(行動観察法)」が紹介されています。これは、特に最近注目されている方法です。
さて、本書のトップ、この「ロジカル・シンキング」の章は、著者の主張が非常に模範的かつ「ロジカル」に整理されています。私としては、その説明振りの律儀さに、少々微笑ましい?印象を持ちました。
思考の止揚
本書では、まず最初にお馴染みの「ロジカル・シンキング」の要諦を分かりやすく概説したあと、「ラテラル・シンキング」「インテグレーティブ・シンキング」の解説を続けます。
ロジカル・シンキングが垂直的に掘り下げていく思考法であるのに対し、「ラテラル・シンキング」は「水平思考」ともいわれます。直線的な結論ではなく、斬新さや飛躍したアイディアを生むための思考法です。
その代表的な発想法として著者が挙げているのは3つ。
1.ひらめきを生む発想法「アブダクション」
2.異質なものの共通点を探して結びつける「シネクティクス法」
3.定型化した問題解決のパターンから新たなひらめきを生む「TRIZ(トゥーリーズ)」
その中からひとつ、「アブダクション」というのは、以下のような推論形式をとります。
そして、この「説明仮説H」を検証すればいいのです。いわゆる「仮説検証型」の思考法ですね。
さて、このように、発想力を高めるのがラテラル・シンキングですが、そのためには「創造力」が必要です。とはいえ、全く白地のうえでは「創造力」の発揮はできません。
直線的なロジカル・シンキングだけでは、矛盾や対立が常在している現実社会の問題解決は困難です。そこに統合思考「インテグレーティブ・シンキング」が必要とされる素地があるのです。
著者は、このクリエイティブ・シンキングの説明にあたって、もうひとつの思考スキームを提示しています。「サバイバル・シンキング」と名づけられたものですが、これは「目的達成のために、取り得るアクションを洗い出し、メリットとデメリットを評価する活動」のことです。
著者によると、インテグレーティブ・シンキングとは、このサバイバル・シンキングを「発展的に否定する」ものだというのです。
本書で紹介している3つの思考法ですが、これらを企業活動に当てはめると、
・経営ビジョンの策定には「インテグレーティブ・シンキング」
・経営ビジョン実現のための戦略の策定には「ロジカル・シンキング」
・さらにその戦略を実行する人材を育てる人材ビジョンの策定には、「ロジカル・シンキング」+「ラテラル・シンキング」
が活用されると著者は主張しています。
これもロジカルな整理ですが、私などは単純なので、どんなことを考えるにあたっても、基本は懐の深い「インテグレーティブ・シンキング」だと考えてしまいます。
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