ファーマゲドン 安い肉の本当のコスト (P・リンベリー/I・オークショット)
(注:本稿は、2015年に初投稿したものの再録です)
レイチェル・カーソンの『沈黙の春』は、以前から読んでおこうと思っていた本なのですが、そちらより先に本書を手にとってみました。
今、世界的に拡大している「農業・畜産・漁業の工業化」がもたらす地球規模の影響について、著者たちのリアリティ溢れる警鐘が興味を惹きます。
著者が特に注目して取り上げているのは「第一次産業の工業化」ですが、この急速な拡大による環境破壊は、様々な局面で私たちの身近な生活に悪しき影響を与えています。大気汚染や水質汚濁といった直接的なものもあれば、「ハチの減少」による農業への大打撃といった “風が吹けば桶屋が儲かる”的なケースもあります。
多くの穀物や果実は、ミツバチ等昆虫による受粉がなければ収穫すべき果実を得られないのです。
「畜産業の工業化」も様々な環境負荷を増大させています。
著者は、様々な例を紹介していますが、たとえば「水資源」に対しても深刻な影響を与えています。
このあたりの指摘は、先に読んだ「里山資本主義」で著者の藻谷浩介氏が抱いている問題意識と完全に重なります。
工場飼育は、環境汚染の元凶として、人々の健康の毀損や動植物の生存にかかる自然環境の破壊をもたらすものです。
それ故、工場飼育の廃止は、それらを回復に導くとともに、現在地球規模で問題となりつつある食糧難への解決策にもなるのです。
食糧調達のための「工場飼育」が地球規模の食糧難の一因となっている現状は、ある意味、ちょっと古いスキームではありますが「南北問題」の側面も有しています。
さらに言えば、「南」が被っている食糧難の状況は、このまま放置しておくと「北」も含めた全地球的課題に拡大するのは不可避ですから、まさに、これは地球規模の “持続的成長に対する危機” そのものなのです。
「人間の食を第一とする」に関していえば、
「家畜は牧草で育てる」「魚は家畜にではなく人間に食べさせる」「豚と家禽には残飯を与える」「土壌の持続可能性を高めるために、作物と家畜を一緒に育てる混合農業に戻る」・・・、“具体的”かつ“常識的”な打ち手ですね。
実行するかどうかは、やる気の問題とも言えますが、やる気を起こすには「今起こっている現実の認識」が出発点になります。
本書は、そういった取り組みに関わる人の“バイブル”です。