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團十郎の歌舞伎案内 (市川 團十郎(十二代目))

 古典芸能については全くの門外漢ですが、ちょっと興味はあります。
 そういうこともあり、以前、茂山千三郎氏による「世にもおもしろい狂言」という狂言の入門書を読んでみました。

 今回は「歌舞伎」です。
 本書は、歌舞伎の代表的役者である市川團十郎氏が、2007年9月青山学院大学で話された集中講義の内容をベースに1冊の本にまとめたものとのことです。話し言葉で記されたとっつき易い内容です。

 本の前半は、歴代の「團十郎」のエピソードを振り返りつつ歌舞伎の歴史について概説しています。
 初代の團十郎が登場したのは江戸初期、その後明治期には九代目團十郎演劇改良運動に関わりました。

(p74より引用) 当時の江戸歌舞伎といえば、見た目が華やかでおもしろければ物語の時代背景なんて無視していた。それが維新を迎え、とくに知識人のあいだに、できるだけ真実に近いものを、歴史は歴史としてきちんととらえるべきだという思想が広まってきました。九代目團十郎もそういった思想の信奉者でした。

 それに対して、著者十二代目團十郎はちょっと異なる考えをもっています。

(p81より引用) お話ししましたように芝居の内容も変わってきます。ひと言でいえば「真実は真実として見せる」という方向へ。それがはたして歌舞伎にとってよいものかどうか。ウソがほんとうに見えて、ほんとうがウソに見える‐それが歌舞伎の世界観なんですけれどね。

 著者は海外での歌舞伎公演にも積極的です。そうした中で日本芸能のルーツに思いを巡らせます。

(p110より引用) 遊び…この考え方が日本の演劇のいちばんの源であると思います。この「楽=遊び」という発想から、日本の演劇とか芸能が発展してきたことを、まずは理解してもらいたいのです。

 本書では歌舞伎の概説に加えて、現役の役者十二代目團十郎の芝居に対する考え方や姿勢が語られています。

 そのひとつ、「役者の心がけ」についてです。
 初代團十郎は破天荒な信念の人だったようです。それを受けて十二代目はこう話します。

(p205より引用) わたくしも「何をいわれようが天下御免でやり通す」という思いがございますし、うまいとかヘタとか、そんなことはなるべく考えないように、超越するように心がけております。
 ですがやはり人間、すこしでもうまくやろうという欲は、なかなか捨て去れないものですね。

 もうひとつ、著者が六代目中村歌右衛門との共演で感じた「すごい役者」の真髄について。

(p222より引用) すごい役者さんは、相手の芝居まで上手にしてくれるんですね。・・・自分だけがうまくやっていればいいというものではなくて、周りもうまく見せる芝居のできる役者にならなくてはと痛切に感じました。

 これは何も芝居の世界だけの話ではありませんね。


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