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腹八分の資本主義 日本の未来はここにある! (篠原 匡)

 中央主導の地域振興策や福祉施策の無駄が指弾されている現在、中央に頼らない住民目線での改革で成功を収めている地方自治体がいくつか誕生しています。
 また、厳しい経営環境の中においても、地域に根ざした特徴的な経営を続け業績を伸ばしている企業もあります。

 本書は、それら画期的な取り組みを実施している現場を訪れ、リーダーの想いや関係者の苦労、成功の要因等を紹介したものです。

(p22より引用) 「補助金」「地方債」「交付金」。この3つを行政関係者は「地獄の3点セット」と呼ぶ。インフラ整備やハコ物事業を進める場合、国や県から半分程度の補助金が出る。さらに、足りない分は地方債の発行が認められ、その元利返済は地方交付税で面倒を見てもらえた-。この3点セットは市町村が借金の痛みを感じることなく、借金を積み重ねることになる原因になった。

 充実した子育て支援策を中心に出生率を向上させた長野県下條村伊藤喜平村長は、この3点セットに頼らない地域独自の取り組みを推進しました。
 その過程では、補助金を活用した施策の失敗も経験したとのこと。その失敗を教訓とし、地元密着の施策で頑張ったのが成功の要因でした。

 本書が取り上げている実例は、日本に止まりません。
 社会福祉先進国スウェーデンの国営企業サムハルの紹介の一節です。この企業は、従業員の9割が障がい者。障がい者を労働者として自立させるためにつくられた障がい者のための企業です。

(p101より引用) 国営企業であるがゆえに、どこよりも厳しい経営の縛りをかけられている。その制約の中で企業を経営する姿は日本の特殊法人とは似て非なるもの。国民の負担を削減し、障害者を社会化するために、不断の努力を続けている。そして、その存在を国民も理解している。

 ポイントは、「国民も理解している」という点です。

 サムハルには醒めた目的もあります。高福祉負担に応える財務基盤強化のためには税収の確保は避けられません。一人でも自立した労働者を増やすことは、納税者を増やすことでもあるのです。しかし、そのための施策を実行していく社会環境が、日本とは圧倒的に異なるのです。

(p129より引用) スウェーデンという国を見つめると、底流には「人を切らない」という哲学が流れている。「障害者であっても雇用の機会を等しく与える」。サムハルが作られたのは、この理想を実現するため、障害者を社会から切り離さないためである。

 とはいえ、日本にも「人」や「社会」を大事にしている企業があります。
 伊那食品工業
 利益拡大を最大目標にしている企業のなか、会社の経営理念として「社員の幸せを通して社会に貢献すること」を掲げる塚越寛会長の言葉です。

(p168より引用) 「どんなに儲けている会社があったって、従業員が貧しくて、社会に失業者が溢れていれば、それには何の意味もない。世界一売る小売りが米国にあるけど、従業員の10%近くが生活保護を受けているという。それで『エブリデイロープライス』。いったい何なのって思うだろう」

 そうですね、「お客様」も「人」、「社員」も、やはり「人」です。



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