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全体最適の問題解決入門―「木を見て森も見る」思考プロセスを身につけよう! (岸良 裕司)

質問の力

 「ザ・ゴール」をはじめとした一連の著作でエリヤフ・ゴールドラット氏が提唱しているTOC(Theory of Constraints=制約理論)の入門書のひとつです。

 「全体最適」を実現した課題解決法をわかりやすく、

・みんなが納得する「対立解消術」
・つなげて見える「現状把握術」
・逆転発想でつくる「未来構想術」
・中間目標に集中する「目標達成術」
・先を読む力を鍛える「実行手順立案術」
・全体最適でみんなをつなぐ「戦略戦術実践術」

という6つの手法に整理して解説しています。

 たとえば、「対立解消術」の章では、「対立を妥協なしに解消していく方法」として、対立の構造を図式化し自分たちが認識している「仮定」を検証していく手順を勧めています。
 著者は、そのための図を「クラウド」(Evaporating Clouds)と名付けていますが、対立解消のポイントは、各々の「クラウド」に記述された「仮定」の中に潜む「思いこみ」の気づきです。

(p30より引用) 思いこみを解消し、対立をなくし、妥協なき両立する解決策を検討していく。

 そのために有効な方法が「質問」です。

(p51より引用) 答えだけを与えても、正しいとは限らない。・・・質問をすることは、正しい答えを導き出すのに、はるかに重要な意味を持つ。・・・
 「相自時妙」にある4つのアプローチは、それぞれ、
  ・誤った思いこみを導き出し
  ・それに対しての解決策を導き出す
ように練られた質問なのだ。

 ソクラテスを引くまでもなく「質問」の力はとても強力です。
 よい質問は、新たな視点や視座を提示してくれます。また質問は、質問者と回答者のインターアクションを前提としています。すなわち、自分ひとりではなく他者の叡智も集合できるということです。

(p148より引用)
現実「いまは、どういう状態ですか?」
要望「何をしたいのですか?」
行動「その現実と要望に対して、どういう行動をするのですか?」

 このたった3つの質問と答えを繰り返すことにより、目的の明確化とそれに向けての現実的な「実行行動手順」が立案できると著者は説いています。

全体を見る「構造化」

 多くの問題解決法に共通する「はじめの一歩」は「課題の明確化」です。もちろん、そのステップ自体は正しいものですが、事象を分析的に分割して考え始めると、しばしば「部分最適」の罠に陥ってしまいます。
 たとえば、「利益が上がらない」という課題に対してその原因を「コスト増」にも求め、ひたすら「コスト削減運動」に取り組んで縮小均衡のスパイラルに落ち込んでしまうといった具合です。

 そういった短絡的な部分最適追求行動を回避する方法のひとつが「現象の構造化」です。

(p72より引用) 構造化していけば、一見複雑に見える現象の数々も、つなげることによってけっこうシンプルにわかりやすく理解することができる。そして、どこから手をつけていいかも明白で、根本問題から手をつけていくことが、もっともスピーディーで効果的な問題解決の突破口となるのだ。

 著者は、この構造を顕在化したチャートを「現状ツリー(Current Reality Tree)」と名付けています。システム開発でいえば「E-R図」的な図柄です。
 事象を「個々の要素」とその「つながり」で構造化して、まず、全体的な問題構造を俯瞰的に把握する、そして、その「つながり」を辿り根本原因を明らかにして、そこにアクションをうつというのが、この「現状ツリー」にもとづく課題解決のやり方です。

 「対立の解消」もこの構造化の方法が適用されています。
 すなわち、対立している行動をスタートに、それぞれの行動の背景となる要因(要望)を明らかにします。そして、それらの要望が共通に掲げることのできる「目的」にまで遡るのです。そして、その「目的達成」にベクトルを合わせて「相自時妙」で対立を解消するという段取りです。

 著者は、これらの営みを、関係者数人で、声を出しながら行うことを勧めています。刺激を与えながら「三人寄れば文殊の知恵」を活用する実践的な工夫だといえますね。

 さて、その他、本書を読んで書き留めておくべき点を以下にご紹介します。

 一つ目は、ゴールドラット氏が「ザ・ゴール」で提唱したTOC(Theory of Constraints=制約理論)の復習です。

 本書では、「目先の活動が、ロジカルに全体最適になり、最短・最速で変革を実現するための方法論」として紹介されています。「5つの集中ステップ(Five Focusing Steps)」です。

(p92より引用)
ステップ1 制約を見つける
ステップ2 制約を徹底活用する
ステップ3 制約にその他のすべてを従属させる
ステップ4 制約の能力を高める
ステップ5 惰性に気をつけながらステップ1に戻る

 このステップで重要なのは、ステップ4にいきなり飛びつかないことです。
 まず「制約」をフル稼働させ、それ以外のプロセスを「制約に合わせる(ステップ2の処理量に合わせて減速する)」というステップ3を経ることがポイントです。これにより、余剰稼働を生み出すことができますし、無駄なコストも削ぎ落とすことができるのです。これだけでも現場には大きな余裕が出てくると著者は説いています。

 もう一つ、「戦略」と「戦術」の現実的な定義です。

(p161より引用)
戦略とは、「何のために?」それを行なうのかという質問に答えるものである
戦術とは「どうやって?」という質問に答えるものである

 多くの場合、戦略と戦術との関係は、それらを策定する「組織の上下関係」で説明されていました。が、上記の考え方は、戦略と戦術は「ある事柄」の表裏だというのです。
 こう考えると、「戦略と戦術はそれぞれ切り離されうるものではなく、同期して機能するものである」との意識が強まります。



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