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ザ・クリスタルボール (エリヤフ・ゴールドラット)

 エリヤフ・ゴールドラット氏の著作は、有名な「ザ・ゴール」から直近では「ザ・チョイス」までずっと読んでいます。

 今までのものとは変わって、今回の最新作は「小売業」が舞台になっています。
 テーマは、“在庫の極小化による投資効率の向上”SCM(supply chain management)の小売流通業への適用事例です。

 本書のケースの主人公ポールの着眼は、以下のフレーズに要約されています。

(p273より引用) 各地域の倉庫の需要は、その地域全店の需要の合計だ。個々の店の需要予測を地域レベルで合計することで、その精度は各店それぞれの予想より三倍高くなる。・・・そして、10の地域倉庫からの予想を中央倉庫レベルでまとめると、精度はさらに三倍高くなる・・・在庫は、一番予想精度の低い店舗レベルで持っていてはダメ。精度の一番高いところ、つまり中央倉庫レベルで持つべきなのよ。そして、補充時間が短いことを活かして、商品をいま必要とされているところに移動させればいいのよ。

 小さいユニットでの予測すると、それぞれのユニットがショートを起こすリスクを考えて安全サイドの余剰を抱え込みます。従ってそれらの計画値を足し合わせると、同方向の予測誤差を合計してしまうことになります。結果、その予測精度は、はじめから全ユニットトータルを単位にマクロ予測をした場合より劣るということを言っているのですが、それはあまりにも当然です。
 配下に複数ユニットをもつ管理組織で計画策定した経験のある読者には、経験からも十分理解しているところであり、改めて説くほどの指摘ではないでしょう。

 また、配送のリードタイムを短縮し、小ロットで在庫補充することにより店舗在庫を圧縮するという方法も、現在のコンビニエンスストアの例を引くまでもなく、取り立てて目新しいソリューションではありません。

 さらに、ゴールドラット氏の著作のすべてに言えることですが、ストーリーは理論の説明のためであることから、そこでの描写には、実業務において参考になるような現実場面で遭遇する「泥臭さ」や「リアリティ」が感じられません。そのため、本書を通しての疑似体験としての気づきも得られないのです。

 そういう点でいえば、残念ながら本書の評価は、大半の読者にとっては期待はずれという意見になるのではないかと思います。

 ゴールドラット氏の著作は、毎回新たなものが発刊されるたびに期待をもって手に取るのですが、最初の「ザ・ゴール」のインパクトを超えるものは未だにないと言わざるを得ません。

 今回のストーリーの舞台となっているポールの店のあるボカラトンには、十数年前一度行ったことがあるというのが、唯一印象に残ったという感じです。



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