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NTTの自縛 知られざるNGN構想の裏側 (宗像 誠之)

 数年前にNTTが取り組んでいた次世代ネットワーク(NGN:Next Generation Network)の構築」をひとつの材料に、当時のNTTグループが直面していた大きな課題を明らかしようとしたレポートです。

 著者は、NTTグループが抱える課題の根幹にあるものを「電話的価値観」だと指摘しています。

 そういった視点から捉えられたいくつかの問題的事象を紹介しましょう。

 まずは、著者が「電話的価値観」のひとつにあげている「プロダクトアウト的思考」に関して。

(p76より引用) NTTグループには、『高機能なよいインフラを作れば使われる』『NTTが作ればユーザーは使う』といった今では時代錯誤になってしまった感覚が電話時代から残っている。・・・
 だが、IPネットワークは電話網とは違う。
 IPネットワークで使うルーターやサーバーなどの通信機器は市販製品であり、ネットワークそのものの機能では他事業者と差を付けにくい。こうなるとインフラではなく、そのインフラを使って提供するサービスで他事業者とどう差別化していくかが重要となる。・・・
 このように通信事業者を取り巻く環境が変わっている中で、NTTが持っている電話のプロダクトアウト的な感覚は大きな足かせになる。現に、その視点がすっぽりと欠けたまま、NTTのNGNは進んでしまった。

 また、同じく「電話的価値観」の代表的表象としての「自前主義」「計画重視マインド」に関して。

(p80より引用) 誰も管理しないインターネットと異なり、通信事業者が管理できるNGNなら、通信品質や帯域を制御して追加料金をユーザーからもらたり、付加価値のある新サービスを提供して収入増につなげられたりする可能性がある。・・・
 「NGNへの取り組みは、インターネット文化に対する、世界中の通信事業者の逆襲」-。
 同じIP技術を使うとはいえ、コンセプトが全く異なるNGNとインターネットの関係について、そう解釈するアナリストは数多い。

 もちろん、現在のNTTグループを取り巻く課題は、NTTが内包する「旧来の価値観」のみに起因するものではありません。
 1999年に実施されたNTT再編成、すなわちNTTグループ各社の新たな事業ドメインの整理も、今となっては(実は、当時から指摘されていたことですが、)時代の流れに対応した判断とはいえないものです。

(p119より引用) 時代が変わりIP技術を使うインターネットの波が押し寄せると、電話の発想で分割されたNTTの組織体制はすぐに時代遅れのものとなった。インターネットが台頭し、地域や距離は関係ないIP技術を使うネットワークの時代に移行する中で、県内通信を基本とする地域通信事業者がずっと存続していることもおかしな話。既に、固定通信と移動通信の融合まで始まっている時代に、このような時代と合わない体制を維持する必要はなくなってきている。

 本書の最後の章で、以下のようなNTT関係者のコメントが紹介されています。

(p175より引用) もはや、NTTが2010年に光アクセスのユーザーを二千万回線にできるかどうかという数字上の目標達成にはあまり意味がないのである。・・・
「二千万でも三千万でもどちらでもいいが、NTTの都合で強引に光アクセスを引いただけでは意味がない。『ユーザーが新サービスを使ってくれるようになった結果、光アクセスやNGNのユーザーが二千万~三千万まで増えた』というアプローチができなければ、収益状況の改善は見えずNTTの将来も見通せない

 至極当然の内容です。

 著者は、NTTに対して「電話的価値観」からの脱却を求めています。
 が、問題は旧弊から脱してどこに向かうかです。答は、単純明快で、素直に「お客様にとって真に価値あるサービスを提供する」という極々当たり前のことを追求し続けることでしょう。

 さて、現在(2021年)のNTTはどうなっているでしょう。本書が書かれたころの姿とは事業環境自体も様変わりしていますし、NTT(グループ)の事業ドメインも大きく変化しています。
 その中で主役の座ではなくなったように見える「ネットワーク屋としての位置づけ」をどう捉えどう応えていくか、守旧派?の私としては興味のあるところです。



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