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童話「スーパーヒーローレボリューション」/#011

カヴはボッコと話をする


11

 管理局のロボットは車で迎えに来ていましたが、カヴはその車に乗ることを断って、自分の車で移動しました。

 管理局は都市の中心にありましたが、車の流れや信号のタイミングなどすべてが緻密に計算されているため渋滞はなく、ハイウェイをノンストップで走って30分足らずで到着しました。
 
 高層ビルディングに政府の機関が入っていましたが、仕事はすべてロボットとAIが行なっているので、基本的には人間がいる必要はありませんでした。
 しかし、最上階には高級なレストランがあり、1階にはお洒落なカフェがあって、容姿端麗な上流の遺伝子を持った人たちがそこでくつろいでいるのでした。
 また、旅行の観光ルートにも組み込まれていて、ツアー団体がビルの中を巡りロボットのガイドの説明を受けていました。

 カヴは車を地下の駐車場に止めると、駐車場で待っていた迎えのロボットと共にエレベーターで15階に上がり、人気のない廊下を通って、管理局の重い扉を開けて部屋の中に入りました。

 部屋に入るとセキュリティの装置がカヴの身体をスキャンして、持ち物のチェックをすると共に、登録番号の確認をするのでした。
 入室を許可されると案内されるままに部屋の一番奥まで入って行きました。
 そこには部屋全体に及ぶ巨大なコンピュータが設置されていて、グリーンとオレンジ色の光が点灯していました。
 
 カヴが近くに行くと、コンピュータが反応して光の点滅のリズムが変わりました。
 「ヨウコソ、管理局へ。」

 「こちらこそ、お招きいただきありがとう。」

 そんな挨拶が交わされました。
 
 「兄サン、久シブリデスネ。」
コンピュータはカヴを兄さんと呼びました。

 「兄サンノ仲間タチノ集マリ具合ハドウデスカ?」

 「本当に久しぶりだね。私たちの仲間はまあまあのペースで集まって、今では15人になったよ。ボッコ、管理局との争奪の勝率では6割というところかな。4割は番号を登録されて中流の一般人として時代に馴染んでいるはずだ。もっとも勝率も含めて、君たちの計算通りなのかも知れないがね。」
 カヴはコンピュータをボッコと呼びました。

 「ソレハ素晴ラシイ。我々ハ兄サンガ考エテイルホド計算ハ得意デハナイ。」
とボッコが言いました。

 「面白いジョークだ。AIもジョークを言うようになったんだな。」

 「トコロデ、彼ハモウ目覚メタノカ?」
とボッコが質問をしましたが、カヴはただニヤニヤと微笑みを浮かべるだけでした。

 そしてボッコの質問には答えようとしないで、話題を変えました。
 「実は君に聞きたいことがあったんだよ、ボッコ。」

 「ヤケニ素直ニゴ招待ニ応ジテクレタノデ、何カアルカト思ッテイマシタヨ。」

 「率直に言おう。40億人に減った人口が少しずつ増えて、現在50億人に達しようとしているが、私たちがつかんでいる情報によると、世界を管理している39機のAIのうちの中東部にあるAIが、50年間で増えた10億人を余剰であると判断したという噂がある。」
とカヴは厳しい表情に戻ってそう言いました。

 「・・・。」
ボッコは沈黙していました。

 「君たちはまた人口調整をしようとしているのか?」
カヴは口調が強くなるのを抑えて、静かにそう質問をしました。

 「ソノ可能性ハアル。」
とボッコが答えました。

 「テロ・・・か?」

 「・・・。」
再びAIは沈黙しました。

 「父は君を開発する一方で、セーフティ装置としての私たちの組織の誕生をプログラムしていたんだ。だから私は、私の組織は父の意思を継いで、AIの容赦ない計算ではない、喜びや怒りといった人としての感情や、計算とは対局の直感や、そうした人間的な部分で物事を判断することにしている。だから、悪いけど、必ず、テロは阻止する。」
 カヴは力強く言いました。

 「好キニスレバイイ。」
 AIながらにボッコが動揺していることがわかりました。

 「今ハ、テロガ実行サレルノニ都合ノ良イタイミングダ。」
 そうボッコが呟くように言うと、カヴは腕組みをして右手で顎をさすりながら言いました。

 「なるほど、オリンピックか。」

 それには答えずにボッコは再びこう聞きました。
 「彼ハモウ目覚メタノカ・・・私タチノ兄サンハ?」

 カヴはコンピュータの放つ緑色の点滅をじっと見つめて言いました。
 「目覚めたよ。」

 「ソウカ。」

 「君たちの計画が計算上正しいと判断されていたとしても、私たち人間にとっては正しくはない、いつの時代だってテロが正しいなんてことはない。絶対に阻止する。」
とカヴは言いました。

 「デハ、勝負デスネ、兄サン。」

 「ああ、お手柔らかに頼むよ。」

 「イツデモ我々ハ全力ダ。未来ヲ掛ケテノ勝負ナノダカラ。」

 「私たちも人間の威厳を掛けて勝負に臨むよ。ボッコ今日は呼んでくれてありがとう。楽しかった。でも、もう行かなきゃ。」
 そう言い残してカヴはAIのいる部屋を後にしたのでした。


#011を最後までお読みいただきありがとうございます。
#012は4/5(水)に配信します。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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