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童話「スーパーヒーローレボリューション」/#006

ジャン、祖父母の家を探索する


6

 翌日は月曜日でしたが、この時代の子どもは学校には行っていないし、大人も会社に行かないので時間を自由に使うことができます。
 
 ソラの家族と僕は朝から僕のお父さんの所在について調べることにしました。
 この時代は水道や電気のようにインターネットがあることは当たり前で、貧しいソラの家にもインターネットが使える端末はありました。
 
 僕のお父さんは有名な科学者だったので、インターネットで検索をすると、何を専門として研究していたのか、どんな論文を書いたのか、どんな業績があるかなどたくさんの項目がヒットしましたが、そのどれもが戦争前のもので、現在の所在の手がかりになるようなことは見つかりませんでした。
 それで僕とソラたちは僕の家族が住んでいた場所へ直接行ってみることにしました。
 
 僕は10歳の頭脳ではありますが、自分の住所は暗記していました。
 しかし、人類が半分になってしまうほどの大きな戦争を経た時代ですので、戦争前と同じ住所で街が存在しているとは思いませんでした。
 
 戦争が終わってなんでもが新しく作り直されました。ビルや家などの建物もそうですが、制度や法律やコミュニティなども再構築されたのでした。
 そしてその時に真っ先に作られたことが個人番号による市民の管理制度です。
 
 ソラのお父さんがどこからか車を借りてきてくれて、僕らは車で移動しました。
 車はAIを搭載した自動運転の車です。
 「父さん、すごい車だね。オレ、こんなの乗るの生まれてはじめてだよ。」
とソラが興奮して言いました。
 
 僕が覚えていた住所をAIに伝えましたが、やはり該当する地名がないと云う返事でした。家の近くにあった学校や病院や大きな公園の名前など、思いつくままに伝えてみましたが、該当する場所はまったくなく、ようやく検索できたのは近くを流れていた小さな川でした。
 川の近くに車を停めて、散策しましたが、地名はもちろん街並みもまったく一から作りかえられていて、昔の面影は微塵もありませんでした。偶然、知り合いに出会うこともありませんでしたし、僕の家族を探すことの手掛かりになることは何一つなかったのです。
 
 次に僕とソラの家族とは、僕のお父さんの故郷に行きました。
 僕のお父さんは都心から離れた田舎町の出身で、50年前にはその町でお父さんの両親、つまり僕のおじいちゃんとおばあちゃんとペットのミニチュアダックスフントが暮らしていました。
 
 僕たちが行ってみると、田舎町の開発は後回しにされているのか、意外に町の面影が残っていたのでした。
 しかし、車を降りて歩いてみると、町には誰も住んでいなくて、すっかりゴーストタウンになっていたのでした。かつて商店街だったところは閑散としていて、家のガラス窓は割れて破片があちこちに飛び散り、庭の木や植物がワサワサと茂っていました。木の実や植物を餌にして生息している鳥たちの姿があちこちに見られました。
 
 僕の曖昧な記憶を頼りにしておじいちゃんとおばあちゃんの家を探しました。自分でも驚くほど道を覚えていて、目的地はすぐに見つけられました。
 綺麗好きなおばあちゃんの掃除が行き届いてあんなに整然としていた家が今では見る影もなく荒れ果てていました。
 玄関のノブに手を掛けると鍵は掛かっていなくてドアが開きました。
 
 懐かしさと悲しさと複雑な思いで僕は家の中に入って行きました。
 恐らく戦争が激化して着のみ着のままで逃げ出して、そして二度と戻れなかったのでしょう。家具や電化製品などが生活をしていた時そのままで人間だけが抜け落ちたような形で色褪せて風化していたのでした。
 
 本棚には写真立てに入った僕の家族の写真が飾ってありました。学校に上がる前、幼かった時の僕と若いお父さんとお母さんがニコニコと幸せそうな顔で笑っています。
 僕にしてみればたった一日、寝て起きただけの感覚しかないのですが、世界はまるで変わってしまって、僕は一人取り残された異邦人であることがじわじわ実感として湧いてきたのでした。
 
 おじいちゃんとおばあちゃんが仲良く並んで照れ臭そうに笑っている写真がありました。
 
 そして一番手前にはホコリをかぶった写真立て。僕とお母さんが写っていました。写真の中の僕は今の僕とほとんど変わりがありません。つまり僕が生命維持装置に入る寸前の写真なのでしょう。僕を生命維持装置に入れることを決断したお父さんはどんな気持ちだったのでしょう。そしてその決断を聞いたお母さんはどんな思いで承諾したのか。おじいちゃんやおばあちゃんはどんな思いで僕との最後の日を過ごしたのでしょうか。
 
 僕がこの写真を撮った日、おじいちゃんの家で僕たち家族みんなで鍋をしたことを思い出しました。カニが入った鍋でした。お腹いっぱいになるまで食べて、そうだ、お母さんは途中で気持ちが悪くなってトイレに駆け込んだんだっけ。
 写真のお母さんを見て僕は少し不思議な気がしました。お母さん、この頃少し太っていたんだなあ。
 
 お父さんの故郷へ行った後、お母さんの故郷を探しましたが、都心に近いお母さんの故郷の実家の辺りは僕の住んでいたところと同じように街並みがすっかりと変わっていて、何の手掛かりを得ることもできませんでした。
 
 そしてその日はソラの家に帰り、ソラのお母さんの手料理をご馳走になりました。


#006を最後までお読みいただきありがとうございます。
#007は3/1(水)に配信します。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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