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童話「スーパーヒーローレボリューション」/#002

ジャン、2080年に目覚める

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 人間は遺伝子のスペックによって生まれた時から階層が決められています。それは一生涯を通じて変わることのないものでした。スペックをプログラムした会社の社名の頭文字と遺伝子情報に基づく16桁の数字によって番号が付けられて番号による国家の管理が行われていました。番号は街のいたるところに設置されてあるAI付きの監視カメラによってスキャンされて、人々の行動のログがすべてデータとして収集されていました。
 
 経済格差がある状態で秩序とバランスが保たれていたので、貧しい人たちもいます。しかし彼らが生きていく上での人間としての必要最低限の生活はプログラムによって保証されていました。
 
 貧しい街の貧しい人たちのコミュニティがあり、そこで助け合って生活をしている人たちによって一体の性能のあまりよくないロボットが所有されていました。
 
 そのロボットは自動の掃除機や自動の床拭き機などと一緒に行動をして掃除を行う人型のロボットで、主に戦前に建てられた、この時代においてはアンティークとも言える古い建物を中心に掃除をしていました。

 僕は過去からやってきました。

 タイムトラベラーとかそういうのではありません。僕の父は軍事兵器を開発していた科学者の一人でした。父は好んで軍事兵器の開発に関わっていたわけではありませんでした。国立大学の研究所に所属していたので国からの命令で無理矢理にそういう仕事をさせられていたのです。
 
 2030年に戦争が始まる寸前に父は世の中が滅亡することを予想して、まだ子どもで将来のある僕を国立大学の研究所のシェルター機能のある建物の地下倉庫に自力で発電して数百年稼働することができる生命維持装置に入れたのでした。この装置に入ると人間は冬眠状態になり細胞が活動を停止します。装置に入った時の状態で生命を維持できる、つまり時間を止めた状態で僕を未来の世界に送り届けることができるのです。計算上数百年動かすことができる装置ではありましたが、期間が長くなれば長くなるほどリスクは大きくなります。ですから父は戦争が起こった場合に、戦争が集結して時代が落ち着いているであろう50年後の2080年に僕が目を覚ますように装置のタイマーを設定したのです。
 
 僕は国立大学の地下倉庫の生命維持装置から50年振りに10歳の子どもの状態で目覚めました。
 
 装置の中で点灯している「OPEN」と書かれた青いボタンを押すと装置が空いて僕は外に出ることができました。外がどんな状態かわからないので、目覚めた後に装置の外に出るときは装着するようにと父に言われた通りに、顔全面を覆う大げさなマスクを装着して僕は装置から起き上がり、そして倉庫のドアを開けて大学の中を探索しました。
 
 辺りは明るくてどうやら昼間のようでした。倉庫のドアを開けるとそこには階段がありました。階段を上がっていくと廊下がありました。果たしてどんな世の中になっているのか見当がつきませんし、こんな大仰なマスクをつけていますから僕が装置に入った時と変わっていないようであれば僕は不審者以外の何者でもありませんでした。おそるおそる、足音も立てないようにして廊下を歩いて行きました。教室や実験器具のある研究室などが残っていましたが、もうすでに何年もの間使われていないような雰囲気で、ひとけはまったくなく、廃墟のようでした。
 
 教室の角で廊下が別の廊下とT字にぶつかっていたので右に行くべきか左に行くべきか迷って立ち止まりました。遠くからカシャカシャという機械音が聞こえてきて、小さな赤い光が僕の胸のあたりで光ったかと思うと、ピー、ピーと大きな音が鳴り出したのでした。
 
 音のする方を振り向くと、過去から来た僕の予想を裏切らない、これぞロボットというフォルムのロボットらしいロボットが僕の方に向かって歩いてくるところでした。
 
 危険を感じた僕はその場を逃げ出そうとしました。すると、
「動カナイデクダサイ。」とロボットが言葉を発しました。
 
 ロボットは不器用な二足歩行ながらそこそこのスピードでもう僕のすぐ側までやって来ていました。二足ロボットの後ろからは僕も知っている円形の自動掃除機ロボットがついて来ていました。そして、僕の正面に来て立ち止まると、
「個人番号ヲ認識デキマセン。アナタハ誰デスカ?」
と質問しました。
 
 僕はとてもびっくりしましたが、覚悟を決めてこう答えました。
 「個人番号というのがなんなのかはわからないけれど、僕の名前はジャン。」
 「ワカリマシタ。アナタハジャン。」
 ロボットが僕の名前を繰り返しました。

 「君は誰だい?何をしているんだい?」
 今度は僕が聞き返しました。
 
 するとロボットは僕の質問には答えないで、現在の姿勢のままで動かなくなってしまいました。答えを考えているのかと見ていると、点灯していた目の光はバッテリーが切れたかのように段々と暗くなっていきました。足元にはくるくると掃除機のロボットが回っています。
 
 「そいつの名前はPP(ピーピー)。オレたちが所有しているロボットで、廃墟の掃除をしてるんだ。」
と、突然、僕より少し年上に見える少年と僕と同じくらいの少年2人の、3人の少年が僕の前に現れました。少年たちは着込んだTシャツと穴の空いたジーパンという薄着で、マスクなどは被っていませんでした。それを確認して僕は自分が被っていたマスクを脱ぎました。
 
 「大丈夫、空気はあるし、汚染もされていない。オレの名前はソラ。ジャン、君はいったいどこから来たんだい?」
 
 少年はそう質問しました。痩せた体にしっかりした筋肉がついていて活発そうな少年でしたが、話し方は穏やかで、なんだかいい人そうでした。
 
 「どこから来たって言われると、ずっとここに居た。強いて言うなら過去から、かな。あ、今っていったい何年なのかな?」
 
 「ここに居たって、この大学に居たってこと?大学に住んでいたの?」
 
 「いや、住んでいたわけじゃあないんだけど、僕のお父さんが大学で働いていて、・・・あの、その、どう言ったら良いかな。」
 
 「ひとつ聞くけど、このあと予定ある?って言うか、行く宛ある?」
 ソラは優しく微笑みかけました。
 
 「ジャンの話をゆっくりオレたちの家で聞かせてくれよ。」
と言うと、ロボットのPPに向かって「再起動」と声を掛けました。
 
 ロボットは小さな音を立てて動き出し、目の光が徐々に明るさを取り戻しました。
 
 「2080年だよ。」
とソラは言いました。



#002を最後までお読みいただきありがとうございます。
#003は2/1(水)に配信します。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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