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死ねない病

昔々、じいちゃんは言っていた
「俺は死ねない病に罹った」と
「弱ったなぁ、困ったなぁ」

ばあちゃんがいなくなってから
さみしい思いをしていた

でもばあちゃんが生きてるときはばあちゃんには優しくなかった

「おっか、おっか」とばあちゃんのことを呼んでいた

ばあちゃんはいつもクリームを塗り、ツヤツヤのお肌、ちょっとお上品な感じ人

じいちゃんは女が寄って来ると言っていたが
わたしの知る限りばあちゃんの方が全然見た目は良かった

なんでこんな人と付き合うのかと頭の中ではてなマークが並んでいた

じいちゃんに尽くしてくれるから…

死ねない病に罹ったじいちゃんは昔から希死念慮が強かった
何回も何回も自殺未遂を繰り返す

それは寂しかったから
幼い頃、自分の母親が自分を置いて家を出て行ったことがある
どうもそれが心の傷になっているようだった

じいちゃんの父親も浮気ばかりを繰り返す北前船の船長さん

恐らく、たまに家に帰って来ても家に寄り付かず遊び歩いていたのだろう

家には小姑さんが沢山いた
じいちゃんはその人たちに可愛いがられて育ってきた

でも母親が一番良かった

じいちゃんは死んだらお仕舞い
あの世なんてない
そう断言して生きていたはずだった

でも日記には「生まれる前の国に帰りたい」と記していた

だから死んだらどうなるか教えて欲しいと思っていた

じいちゃんが彼の世に還った後

わたしたち家族はじいちゃんのお葬式を終えて、飛行機で自分の家に戻る時、飛行機はガクンと揺れる
母とわたしは顔を見合わせて
「これって絶対、じいちゃんだよね。俺を置いて行くなって…」

それから時々じいちゃんからのメッセージが感じられる

あんなに神々しかったじいちゃんのいた家の仏壇はじいちゃんがいなくなってからはもぬけの殻

じいちゃんを護ってくれていた御先祖様と共にいなくなったように思えた

「死ねない病」に罹ったじいちゃんだったが、じいちゃんはわたしたちに魂の存在を教えていってくれた

心根のやさしい人、わたしはそんなじいちゃんが大好きだ

今は母が毎日祈っていた仏壇にばあちゃんと二人で一緒にいる

母は親の良いところを受け継いでいるらしい

多分ね、じいちゃんちの御先祖様は母のところに来ているような…

じいちゃんの「死ねない病」も他人に何かを教えるため、わたしの糧になっている

口とは裏腹に本当は誰よりも彼の世を信じていたのはじいちゃんかもしれない

魂は生き続ける

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