【第67回岸田國士戯曲賞最終候補作を読む】その5 兼島拓也『ライカムで待っとく』
候補者について
兼島拓也[かねしま・たくや]
1989年生まれ。沖縄県沖縄市出身。沖縄国際大学総合文化学部人間福祉学科社会福祉専攻卒業。チョコ泥棒主宰、劇作家。初の最終候補。
候補作について
昨年11月〜12月、KAAT神奈川芸術劇場中スタジオにて上演。読売演劇大賞優秀作品賞を受賞した他、鶴屋南北戯曲賞の候補にもなった。タイトルのライカムは琉球米軍司令部のあった土地の俗称で、現在はイオンモールが建つ。
■時代、場所
2022年/1964年、沖縄/神奈川
1 2022年 神奈川? 出版社
2 沖縄 タクシー車内
3 普天間 知華の実家
4 横浜 パン屋
5 沖縄 金城の家?
6 1964年 沖縄 裁判所
7 多江子のおでん屋
8 佐久本の回想
9 1964年8月16日 糸満の海
10 裁判所 麻美子の証言
11 8月16日夜 佐久本の写真館
12 裁判所 多江子の証言
13 8月16日夜 佐久本の写真館
14 裁判所 雄信の証言
15 2022年 浅野と藤井の電話
16 2022年/1964年 陪審員の部屋
17 知華の実家
18 薄暗い部屋
19 パン屋
20 1945年 ガマの中
21 不明 埋め立て工事現場
22 不明 原稿の中
23 金城の家
24 タクシー 海
25 ライカムイオンのバックヤード
■登場人物
【2022年】
浅野悠一郎 雑誌記者
藤井秀太 浅野の上司
浅野知華 浅野の妻。沖縄出身
伊礼ちえ パン屋店員。沖縄出身
運転手 浅野が沖縄で乗ったタクシー運転手
金城(きんじょう) 死者が見える女性
【1964年】
佐久本寛二 写真館店主
嘉数重盛 タクシー運転手
平豊久 佐久本の店の従業員
佐久本雄信(ゆうしん) 佐久本の兄。タクシー会社社長
大城多江子 おでん屋の店主
栄 麻美子 嘉数の恋人
検事、判事、陪審員、日本兵、住民、男、機動隊
■物語
雑誌記者の浅野は、58年前の沖縄で起きた米兵殺傷事件について調べることになったのだが、実はその事件の容疑者が自分の妻の祖父・佐久本だったことを知る。佐久本やその共犯として逮捕された男たちの半生を絡めた記事を書きはじめる浅野だったが、なぜか書いた覚えのない内容に文章が書き換えられていた。そしてついにはその記事の中に、いつのまにか自分自身も飲み込まれていく。過去と現在が渾然となった不可解な状況のなかで、沖縄が歩んできた歴史や現在の姿を知っていく浅野。記者として何を書くべきなのか少しずつ気づきはじめたとき、突然娘の行方がわからなくなってしまう。混乱する浅野に、それは「沖縄の物語」として決められたことなのだと佐久本は告げる。その「決まり」に沿った物語を自身が書いていて、また書き続けていくのだと、次第に浅野は自覚していく。【「演劇キック」より】
総評
この作品は未見。
高く評価されているのも納得。
特にシーン16以降、過去と現在が入り乱れ、登場人物たちが原稿の中、物語の中にいることを自覚しながら進んでいくメタフィクションの構成が、沖縄もまた物語の中に押し込められているという痛烈な皮肉となっている。昨年は沖縄本土復帰50周年ということで舞台でも様々な作品が上演されたが、本作を見逃したことが悔やまれる。
今のところ本作が本命。
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